最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、なんとあの「くら寿司」が日本で初めて「オーガニックフィッシュ」の認証を取得したというニュースについて、触れていきたいと思います。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

本日の時事食品ニュース

 


くら寿司

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

(アイキャッチ:PR Wireより)

 

有機JAS以外は「有機」と表示してはいけない?

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし「前編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。
今回はさすがに前編に目を透しておかないと理解がちょっと難しいかと思います)

さて、後編です。
こちらでは前回までの基礎を踏まえながら、今回の「くら寿司」の「オーガニックはまち」について迫っていきたいと思います。

…が、もう少しだけ。
もう少しだけ、基礎的な話をさせてください。

さて。
前回に書いたことですが、任意規格であるこのJAS規格は、国に指定された登録認定機関などによる認証検査を受け、合格するとJASマークの表示が許されるようになります。
ですから「有機JAS」についても、認証を取得すれば勿論「有機JASマーク」をつけることが出来るようになります。

ところで、よくスーパーなどで、「有機」だったり「オーガニック」などと書かれている野菜類を目にすることがあるでしょう。
その場合、この「有機JASマーク」がつけられているはずです。

これらは先のとおり農林水産省が定めた品質規格に基づいて、農林水産大臣に承認された登録認証機関によって厳しく検査され、合格と認められた農産物にのみ表示ができるものです。
そして逆に言うなら、有機JASを取得していなければ、その農産物に「有機」や「オーガニック」と表示しては法的に禁じられているのです。

これはもう法的に規定されていることなので、行政による立入検査で見つかれば、罰則だって生じることになります。
販売禁止処分、タチが悪ければ最悪、1年以上の懲役か、100万円以下の罰金が課されることになります。
このように有機JASは結構厳しいものだったりするんです。

誤解されやすい有機JAS

これまでは、「有機JAS」という法制度についてのお話をメインにさせて頂きました。
そこで、ここでは有機JASをめぐる誤解について、少しだけお話しておきます。
ただしぼくの専門はあくまで食品業界における衛生管理であって、農業では全くありません。
そのためまり深くは立ち入らないようにします。
ポイントは、ぼくらも関連する有機JASというのは何のためのものなのか、ということです。

ところで農林水産省のホームページを見ると、有機食品についての解説が結構詳しくなされています。
そこを見ると、有機食品に対し「環境への負荷をできる限り少なくする方法で生産された食品」だと書かれています。

農薬や化学肥料に頼らず、環境への負荷をできる限り少なくする方法で生産される有機農産物と有機畜産物、それらを原料にした有機加工食品のことをまとめて有機食品といいます。

ここで重要なのは、有機食品というのはあくまで「環境への負荷をできる限り少なくする方法で生産される」ものである、ということです。

ここには、「農薬や化学肥料を使うな」とも書いていませんし、そしてそれは「食の安全安心」「健康」のためである、なんて一文字も書かれてありません。
この「有機とは、食の安全安心のためのものだ」というのは、日本においては大きく誤解されやすいところだったりします。

「有機は無農薬だ」というのも、誤解されやすい話の一つです。
そりゃ確かに農薬や化学肥料についてはそれなりの使用制限や使用法がありますが、しかし「無農薬」とは書いていません。
事実、農林水産省も「有機JASは無農薬栽培する制度ではない」と、しっかりと検査認証制度ハンドブックに書いています。

そして何よりここでの最大の目的は「環境負荷の軽減」であり、有機JASとはとどのつまり、それを規定するための認証制度だということです。
つまりそれが目指すものは、消費者の「食の安全安心」や「健康」ではなく、「農業の自然循環機能の増進」。そう、いわゆる「持続可能性」だということです。

これらのことは「有機農業の推進に関する法律」として、明確に書かれています。

(定義)
第二条 この法律において「有機農業」とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。

(基本理念)
第三条 有機農業の推進は、農業の持続的な発展及び環境と調和のとれた農業生産の確保が重要であり、有機農業が農業の自然循環機能(農業生産活動が自然界における生物を介在する物質の循環に依存し、かつ、これを促進する機能をいう。)を大きく増進し、かつ、農業生産に由来する環境への負荷を低減するものであることにかんがみ、農業者が容易にこれに従事することができるようにすることを旨として、行われなければならない。

確かに有機農産物や有機食品は、結果として人間の健康や、食の安全安心にもつながるかもしれません。
しかし、それはどちらかといえばその結果としての産物であり、有機JASという認証制度自体はそれを目的としているわけでもないし、その目的はあくまで環境負荷の少ない農業や食品製造であり、それによる農業の持続可能性だということを押さえておくべきでしょう。

ここらへん、農薬に対する嫌悪感の強い日本ではとくに誤解が多いところだったりします。

有機水産物のJAS規格は存在しない?

さあ、そろそろ基礎知識もご理解いただいたと思います。
それでは、いよいよの本題に戻るとしましょう。

今回、くら寿司は「オーガニックはまち」と明記しています。
先にも書いたように、「オーガニック」だと名乗るからには、有機JAS認証を受けて合格していないといけません。
ということは、くら寿司はこのはまちの養殖および加工において、正式に認証を受けたことになります。

でも、ちょっと待った。
前回の終わりに、有機JASの対象カテゴリーについてお話をしました。
有機JASの対象カテゴリーというのは、これらになります。

有機JASの対象カテゴリー
  • 農産物(穀物、果実、キノコ、スプラウトなどの有機農産物)
  • 畜産物(牛、馬、羊、豚、鶏他の乳、肉、卵、生体などの有機畜産物)
  • 加工食品(原料の95%~100%が上のもので構成される有機加工食品)
  • 飼料(牧草、サイレージ、TMRなどの有機飼料)

 

あれ?
「水産養殖及び加工」なんて、見当たりませんよね。

そうです。
これまで農水省に定められた有機水産物のJAS規格というのはありませんでした。
そのため、JAS規格の登録認定機関が独自の有機認証を各自で行っていました。
しかしそれは確かに一定の独自認証はされてはいるものの、行政による正式な認証ではありませんでした。

しかし近年、EU、カナダなどの諸外国では有機水産物に対しての規準が次第に設けられるようになり、日本においてもそれに対応していくべきとの声が高まっていました。

そのような背景の中、JAS規格の登録認定機関である「㈱オーガニック認定機構」が新たに水産物の規格を策定。
それが独立行政法人「農林水産消費安全技術センター」において、この3月にようやく国際的に準拠していると認定したという。
これが、今回くら寿司が認証取得したという「有機水産養殖及び加工」という有機JAS規格だということのようです。

そしてくら寿司の養殖ハマチは、晴れて日本初のオーガニックフィッシュとして認証された、ということになったわけです。


AERAdot.

実際に有機JAS認証を取得したのはくら寿司ではない?

このことをもう少し深く、追ってみるとしましょう。

今回の発表を見ていると、もしかすると「くら寿司」自体が有機水産物の認証を取得したように思われるかもしれません。
ですが実はこれ、「くら寿司」が認証取得したわけではないのです。

というのも「くら寿司」というのは、回転寿司チェーン店が本業です。
自前でハマチや魚などの水産物を養殖して育てあげ、そしてそれをさばいて一次処理や加工したりしているわけでは、実はありません。
くら寿司というのは、契約を結んでいる生産業者からそれらを購入し、そして寿司という商品にして提供している事業者です。
ということは、ハマチの養殖・加工によって有機水産物のJAS規格を認証したのはくら寿司ではなく、くら寿司と契約を結んでいる事業者が他にいて、実は有機JAS認証を取ったのはその業者だ、ということになります。

「丸徳水産」。
和歌山県でハマチの養殖、一次処理、加工を行っている水産業者が、実は今回、日本初の水産物での有機JASを取得したのです。
そしてくら寿司は、この丸徳水産と契約を締結してオーガニックハマチを仕入れ、それを寿司などにして販売している、というわけです。


PRwire

もう少し言うと、これらのニュースを読んでみると、あたかも有機水産物のJAS規格が定められ、そしてくら寿司(というか丸徳水産)がそれを取得したように思えます。
ですが実際はそうではないんじゃないか、と思います。

というのも2020年10月、先の丸徳水産はすでにこの「有機水産養殖及び加工」という有機認証を取得しています。
ですが、このときの有機認証はまだ正式に国には定められていませんから、この「オーガニック認定機構」という認証会社のオリジナルな独自規格扱いだったのでしょう。
(勿論、水面下では行政への根回しが進んでおり、予めそれを見越しての動きだったのでしょうが)

そしてこの3月で、ようやく「農林水産消費安全技術センター」なる独立行政法人において、正式に水産物の有機JAS規格化が認められた。
そこで、もうすでに取得していたこの「丸徳水産」のハマチが、自ずと日本初のオーガニックフィッシュと認められることになった、というのが実際のところなのではないかな、と思います。


日本食糧新聞

有機水産物のJAS規格とはどのようなものか

このように非常に興味深い、有機水産物のJAS規格。
実際にはどのような規格なのでしょうか。

これに対し、くら寿司がこの「有機水産養殖及び加工」という有機JASの規格内容について解説しています。

まず、この有機JASでは以下の三点から審査を行うようです。

「有機水産養殖及び加工」の審査対象
  • 飼料製造(有機水産飼料の使用)
  • 育成環境(定期的な水質調査、投薬や給餌の記録管理、緩衝地帯を設け非有機水産物との明確な分離)
  • 加工管理(HACCPシステムに基づく管理体制の徹底)

 

これらのうち、化学飼料の使用禁止といった「飼料製造」、あるいは非有機水産物との分離などといった「育成環境」については、成程そのように規格がなされているのだなあと理解ができます。

しかしここでそれら以上にぼくらにとって興味深いのは、この有機JAS規格でも「加工管理」においてHACCPシステムを取り入れている、ということでしょう。


PRwire

このように、有機水産物のJAS規格上、「CCP(重要管理点)」を定め、品温の温度管理と金属探知機などによる異物混入防止を行い、それをモニタリングし記録する、といったようなことが行われているわけです。

まとめ、と日本のオーガニックの実情について

今回は、前編、後編と二部にわたって、くら寿司が今回日本で初めて認証取得したという有機水産物の有機JASについてのお話をさせて頂きました。
そしてこちら後編では、前回を継いで今回のくら寿司の「オーガニックはまち」についての考察をしていきました。

最後に。
ちょっとだけ触れておきたいのは「日本のオーガニック」がいまだ遅れているという実情です。

というのも、これまで日本の有機農業というのはかなり遅れがちでした。
市場が拡大している、ニーズが高まっているなどと言ってはいるものの、はっきり言って欧米に比べれば日本はオーガニック後進国です。
これについては、幾つかの理由がよく論じられています。
主なところが次のようなものです。

日本で有機農業が遅れている原因
  • 政府や行政が有機農業に積極的でない
  • 認証システムが複雑で非現実な上、維持コストがかかる
  • 有機JAS取得の国内市場効果が薄い
  • 農業規模が小さいため、高コストになりがち
  • 気候上、有機農業に向いていない

 

しかし近年、それらの事情が少しずつ変わりつつあります。
そして、それにあわせてようやく日本の行政も重い腰をやっとあげてきています。
今回のくら寿司の「オーガニックはまち」もそうした一環の一つでもあるでしょう。

何せこれは、農産物ではなく初となる水産物での有機JAS認証です。
こうした有機水産物が、今後日本のオーガニックに、どのようにこれらの問題とかかわっていくのか。
ちょっと興味深いところではありますね。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

 

 

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