皆さん、「E.coli」って何だかご存じですか。
「そんなの知っているよ」という方、ではその「E.coli」は「大腸菌群」や「大腸菌」とは何がどう違うのか、説明できるでしょうか。
今回は、みんな知っているようで意外と知らない、というか実はよくわからない「E.coli」とは何か、についてお話していくとしましょう。
これ、ホントに意外と知られていないし、結構「マジで?」という話だったりしますよ。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えいたします

大腸菌をめぐる「学の目」と「政の目」

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし以下の「前編」をお読みでなければそちらを最初に読んでいただくと理解がより深まります)

というわけで、後編はいよいよその本題に迫っていくことになります。
まともに書くと複雑かつディープでマニアックな話になってしまいますが、そこはご安心ください。専門性よりわかりやすさ優先で書きますんで。

ですが、ちょっとその前におさらいです。
まあ、そんなダラダラとはやりませんのでお付き合いください。

さて、この「E.coli」の話を理解しやすくするため、こんな補助線をぼくは今回、引いてみました。

ここで補助線を引いてみよう
  • “学”の目
  • “政”の目

 

つまりは、細菌学の厳密性を絶対とする、学術のための「学の目」
現実社会の安全維持を絶対とする、政治行政のための「政の目」

こんな言葉は本来は世に存在しない、ただのここでの造語です。
でも、これを引くと話が多分、すうっと通りやすくなるんじゃないかな、というものです。

さて、そんな上で「大腸菌(=E.coli)」とはどんなものかをお話しましたね。
おっと、斜に構えましたね!

前回も触れましたが、イタリック体(斜体)でこのように書くのは、ここで言うところの「学の目」、つまり生物学的に正しいものをイタリック体(斜体)で書こうよというお約束に従ってのものです。
つまりこれは、大腸菌の正式名であるEscherichia coliを短縮した「E.coli」だという意味です。

大腸菌群と大腸菌の「目」の違い

どうやら、「学の目」と「政の目」があるようだ。
でも、こんなん、よくよく考えてみなくとも「まあ世の中得てして、そんなもんよね」と思うことでしょう。
別にそんな難しいことでもない、社会のどこにもありふれているように思える話じゃないですか。

で、このありふれた話がここにもあるのです。
その一つが、実はこの「大腸菌群」というものです。

先の通り、前に「大腸菌と大腸菌群はどう違うのか」についての記事を書いたことがあります。

ここでも書いたように、大腸菌群というのは大腸菌の仲間をも含んだ、広い意味での衛生的な指標菌です。
だから別に腸内にいるものばかりではなく、普通に自然界にいるものもそこに含まれています。

んじゃそんな仲間としての生物的な括りが、細菌学的にあるのかというと、実はありません。
というのも大腸菌群というのは、別に細菌学上の生物的な区分ではなく、行政における公衆衛生の必然性によって人為的に作られたものだからです。
そう、「学の目」としての大腸菌に対し、「政の目」が大腸菌群というものを衛生指標のために便宜的に設けたわけです。

ああ、以前もこうやって説明すればもっと伝わったのかな。
何せ二度目ですからね、ぼくも伝え方の工夫を学習していきます。

さて、「政の目」の根底となるのが「法律」。法治国家なら当然ですね。
そして「大腸菌群」というのは、実は「食品衛生法」において定められた衛生指標のための括りです。
だからこれは、ぼくら食品衛生の世界でこそ、よく使われるものだったりします。

大腸菌群とは

では、実際に「大腸菌群」とは一体何でしょうか。
この世界での「政の目」の根拠、「食品衛生法」を見てみましょう。

そこで定めた「食品、添加物等の規格基準」には、およそ次のようなことが書かれています。
そしてこれが「政の目」から定めた「大腸菌群」の定義です。

グラム陰性の無芽胞性の桿菌であって、乳糖を分解して、酸とガスを生ずるすべての好気性又は通性嫌気性の菌

はい、
案の定、文章だとやっぱり何を言っているか判りませんね。
なので、こいつを少しばかり整理して、で箇条書きしてみることにします。

大腸菌群の条件
  • グラム陰性菌である
  • 無芽胞性菌である
  • 桿菌である
  • (48時間培養以内に)乳糖を分解して酸とガスを生成する、すべての、①好気性菌、又は②通性嫌気性菌

 

おやおや、なんだかこれ、ちょっと既視感がありませんか。
そう、前回の大腸菌の条件とちょいちょい似ています。
実際、上から3つまでがそうです。大腸菌に当てはまっていますね。

実はこの上3つは色々な菌に当てはまります。
というのも、芽胞を作らないグラム陰性桿菌ってのは一杯あるからです。

ということは最後の条件です。
大腸菌は②の「通性嫌気性菌」でした。
しかしここでは、①の「好気性菌」が加わっている。
つまり、ここに大腸菌の仲間を意図的に広げているわけです。

そう、ここで勘のいいひとは、「ん?」と何か引っかかったかもしれませんね。
そこです、「酸素」、空気です。

前回も書きましたが、酸素が少ない大腸には好気性菌は生存していません。
俄然、酸素をいやがる嫌気性菌が増えてきます。「偏性嫌気性菌」の代表選手、ビフィズス菌なんかがそうです。
でもこの「政の目」の括りの中には、偏性嫌気性菌は含まれていません。
入っているのは、まず通性嫌気性菌です。ただしここにも大腸菌以外に、割と結構な腸内細菌が含まれます。

しかもこれに加えて、アウトドア派の「好気性菌」をも入れている。
ということは、土壌や水中などの糞便汚染の可能性のない好気性菌をも「大腸菌群」として広げて含ませている、ということです。

例えば、割と高い頻度で生野菜からも大腸菌群の検出がみられることがあります。
で、何かといえば、野菜ですんで土壌菌が出やすいもの。
つまり土壌にいる大腸菌群(E.aerogenus)が検出される。これなんて糞便に関係ない一例です。

どうでしょうか。
ここまで理解を進めれば、ようやく「大腸菌群が陽性だ」となっても、それが直ちに糞便汚染であると安直に決めつけることに対して、「いやちょっと待とうか」と思えてくることでしょう。
つまり、大腸菌群というのは糞便汚染の指標にはそれほどまでに決め手にはならないし、もし陽性でも「その可能性を含んでいる」程度にしかわからない、ということです。

勿論、だからといって大腸菌群が何の指標にもならない、というわけではありません。
いや、こと食品衛生においてはやはり重要な指標になるものです。

第一に、大腸菌群は熱に弱い、という特徴を有しています。
そのため、しっかりと加熱調理が行われているかどうかの評価には十分になるでしょう。
大腸菌群が検出されるということは、加熱不足の可能性が考えられる、これにゆらぎはありません。

それからもう一つ。
大腸菌群は加熱によって死滅するので、仮に加熱がなされたのであれば、その後の二次汚染が問題となります。
つまり、加熱後に汚染されずに衛生的な保管がなされたかどうか、その指標にもなるでしょう。

このように、「学の目」ではなく「政の目」の指標として食品衛生上において一般的に使われるのがこの大腸菌群だというわけです。

「糞便系大腸菌群」とは

さあ、そろそろ出そろってきましたよ。
ここまでくれば王手まで、あともう少しです。
ただし、あともう一手、ここで必要になってきます。
あせらずに、もうちょいだけおつきあいください。

「学の目」、つまりは細菌学的根拠は存在しないけれど、「政の目」、つまりは公衆衛生上の指針として設けられている分類、それが「大腸菌群」というものでした。

さて、もう一つ「糞便系大腸菌群」というものがあります。
これもまたざっくりとした名前からも伝わるように、「学の目」、細菌学上の生物的な分類ではありません。
簡単に言うと、「政の目」によって大腸菌群の中でも、糞便由来の可能性の高いものを分類したものがこの「糞便系大腸菌群」です。

通常、大腸菌群を検査しようとすると、人間の体温と同じくらいの36℃で培養します。
すると自然界の多くの細菌も一緒に増殖され、大腸菌群として含まれてしまうことになります。これでは糞便由来のものかどうかが判りません。
そこでEC培地というものを使って、44.5℃前後で高温培養するのです。
すると糞便由来により近いものが検出されやすくなるのです。(まあそれも今は昔の話なんですが)
これら糞便系大腸菌群が検出されると、大腸菌群よりもはるかに糞便汚染の危険性が高まります。

ちょっと、ここらでちょっとまとめておきましょう。

細菌学的な分類、つまりは「学の目」ではないけれど、ざっくりとした「政の目」としての食品衛生上の指針である「大腸菌群」というものがある。
で、これまたその中でより糞便に由来していそうなものを「政の目」で分類したものが、「糞便系大腸菌群」だという。
そしてその中に、今度は細菌学的に、つまりは「学の目」で分類いた「大腸菌」というものがある。
そして、さらにその大腸菌の中には、人に健康被害を与えるような「病原大腸菌」というものがある。

おっと、ここでちょっとややこしくさせてしまうかもしれませんが、ちなみに「病原大腸菌」というのも、実をいうと細菌自体の生物学的な区分ではありません。
というのもこれは人間への病原因子に基づいた疫学的な区分だからです。
だから「病原大腸菌(より正確には病原性大腸菌)」以外にも「下痢原性大腸菌」などとも呼ばれたりします。
さながらこれは、「学の目」の中のひとつの「医の目」、でしょうか。

E.coli」と「E.coli」があるってどういうこと?

さあ。ここまで来てようやく、です。
ようやく、「E.coli」の話をする準備が整いました。

え、お前は何を言っているんだ、だって?
もう前回の冒頭でとっくに、解説したじゃないか、だって?

そうです、
確かにぼくは説明をしましたし、今回の後編の冒頭にも書いた通りです。
「学の目」によって「大腸菌」を見た場合。
細菌学上において、「大腸菌」の正式名は「Escherichia coli」。でこれを短縮したものが、E.coliです。
このように、イタリック体(斜体)です。斜に構えてます。

で、ぼくがここでようやく準備ができたと言っているのは、「E.coli」
そう、「イタリック体(斜体)」でなく、「ローマン体」で書いています。
こっちは、斜に構えてません。

え、ちょ、え!?
どういうことなの、
教えて心のキバヤシさん!

日本には、イタリック体(斜体)の「E.coli」と、イタリック体(斜体)じゃない(ローマン体の)「E.coli」の二つが存在しているんだよ!

なんだってー!!

…というにはもうネタバレしてましたよね。
はい、そうです。そのとおりです。

どうして、「学の目」「政の目」なんて話をしたのか。その本当の目的が、実はこれです。
それは、ぼくなりに言い換えるのであれば、「学の目」によって分類される細菌学上のE.coliというものと、「政の目」によってこの日本社会で使われている公衆衛生上の「E.coli」があって、その区別が滅茶苦茶わかりづらいからです。

さあ、そろそろなんとなくわかってきたかもしれませんね。
それでは「政の目」の「E.coli」とは何なのか。
それはもう、すでに説明を終えています。
「政の目」で衛生指標としている大腸菌群の、その中でもより糞便由来だと思われる菌群を「政の目」で指定したもの。
つまり「政の目」の「E.coli」とは、すなわち「糞便系大腸菌群」を食品衛生法上で言い換えたもののことなのです。

ってわかりづらいわ!
当たり前ですが、こんなクソややこしい(学の目)「E.coli」と(政の目)「E.coli」の2つの存在を使い分けているのは、日本だけです。

大腸菌群やE.coliはどう「政の目」に使われているか

これまでも書いた通り、「大腸菌群」や「E.coli」=「糞便系大腸菌群」などのような「政の目」による分類設定は、食品衛生や公衆衛生の分野での行政的な指標として使われることが目的です。

食品衛生法や乳等省令などでは多くの食品が「成分規格」として規格基準が法的に定められています。
それを逸脱するものは、市場に出しては法的にいかんよ、ということです。
例えば今回の話だと、牛乳や乳製品、清涼飲料水、魚肉ねり製品などの規格基準は、大腸菌群が陰性であることです。
また、弁当そうざいや生食用の牡蠣は、「E.coli」が陰性ではないと市場流通ができません。
牡蠣なんて、水中にいるんだから大腸菌群(E.aerogenus)をほぼほぼ持ってます。だからそれで糞便汚染だとは言えないわけです。

あ、それと本当は、この分類の外側に、「政の目」として2011年に設定された「腸管細菌科菌群」というのもあったりします。
これはO157の多発を受けて以来作られたもので、とくに肉の生食に対しての成分規格化を限定目的として作られました。
ここには当然ながらO157などの「腸管出血性大腸菌」を含んだ大腸菌群は勿論のこと、サルモネラ属菌までをも含んだかなり広範囲なものなんですが、まあそこまで話しているとキリがなくなるので、今回はこのくらいでご勘弁ください。

まとめ

今回は、非常にわかりづらい、「大腸菌群」「E.coli(糞便系大腸菌群)」と「大腸菌(E.coli)」との違いについてお話いたしました。

まとめれば、この図のようになります。

いずれにせよ、これらの分類は日本だけのものです。
つまり、諸外国との世界的な規格基準とも整合性をもっていないのです。
これを疑問視する声も勿論、それなりに高まっています。
その多くは、時代錯誤も程があんだろ、というものです。

例えば、「政の目」で「E.coli」を定めた時代には、まだ簡易的に「E.coli」を検出する検査技術が開発されていませんでした。
そこで、それに近い「E.coli」を「政の目」で定めたわけです。
なるほど、確かにその時代にはそれには大きな意味もあったでしょう。
しかし、今や大腸菌を簡易的に検出するのも難しくはありません。結果、日本の法律で定めているような検査は国際的には時代遅れとなっています。

もっと言うなら、ぼく自身こうやって一応一般的な人相手にわかりやすいよう「大腸菌群陽性がうんち菌とか違うからね」なんて書いてますけれど、こんなことはこの世界では常識以下レベルの話ですからね。

それに例えば、時々リコール情報などで「大腸菌群陽性で、法令違反なので行政回収しました」なんてのが上がります。
一般の人はこれを見て「法令違反なんてけしからん!」と、もしかすると吹き上がるかもしれません。
「法律に違反した食品なんて、なんと危険なんだ!」と怯えるかもしれません。
でも、ぼくらにしてみれば、それが健康被害につながる可能性なんてクソミソに低いことはおろか、その法律=成分規格自体がどうなのよ、意味あんの?ってことすら思ったりします。
まあ、このように思ったり言ったりする人が少ないサイレント・マイノリティなので「けしからん」に圧されるわけですが、でもぶっちゃけそんなの行政側だってよく知っています。
知っててやってるんです。

とはいいながらも、一度「政の目」として長年ずっと制度化してしまった以上、なかなかその整備がなされずじまいでいるのが実だったりします。
細菌ではこのような旧態依然の「政の目」で定められた法規定に疑問の声が高まっているので、いずれはこれらも変わっていくのでしょう。

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