最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、「富士フイルムのノロウイルス増殖成功」についてです。

本日の時事食品ニュース

 


富士フイルム

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

実は高いiPS細胞技術を持つ富士フイルム

真冬真っ只中の、今日このごろ。
この下書きを書いているのは1月28日なんですが、なんと只今、窓の外では雪が降っています。
雪っすよ、雪!
いやあ、道理でクッソ寒いはずだわ。

そんなわけで今日はもう早いところ仕事を終わらせて、鍋で一杯やりたいなあと思っている次第なのですが、そんな冬の食中毒といえば、なんといってもノロウイルス。
これを書いている本日にも、茨城県の保育園二箇所で集団感染が確認されており、幼児ら現在95人に症状が出ていると報道が伝えられています。

さて。
今日の話題は、そんなノロウイルスをめぐる最前線のお話です。

少し前にはなりますが、先日1月20日。
富士フイルムがiPS細胞によってノロウイルスの増殖に成功した、との発表がありました。

富士フイルムは、同社の創薬支援用細胞であるヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞「F-hiSIEC(エフ・ハイシーク)」を用いて、ヒトノロウイルスを増殖させることに成功したと発表した。
同成果は、ヒトノロウイルスに対する医薬品候補の有効性検証への応用に繋がるもので、ノロウイルス感染症に対する治療薬・ワクチンの開発に大きく貢献するという。


富士フイルム

富士フイルムといえば、一般的にはカメラ、デジカメ、レンズ、映写フィルムなどでよく知られる、大手精密化学メーカーです。
そんな富士フイルムがどうしてウイルス培養なんか?と不思議に思うかもしれませんが、実は富士フイルムは今「富士フイムホールディングス」として以下、多くの関連会社を傘下に持っています。
で、そこは流石の大資本、その関連会社の中には化粧品やサプリメントなどのほか、再生医療を扱う会社や医薬品、医療機器などの製造会社なども含まれています。

そうそう、富士フイルムが製薬企業として名を高めたのは、新型コロナウイルスの抗ウイルス薬候補「アビガン」の存在でしょう。
今回はその話に触れないでおきますが、このアビガンは富士フイルム傘下の富士フイルム富山化学が開発した薬です。
つまり富士フイルムというのは、今やただのカメラの会社じゃないわけですね。

あ、あと富士フイルムって「富士フ“ィ”ルム」じゃないです。「富士フ“イ”ルム」なんですねえ。へえ。

またこの富士フイルムは、意外にも(?)「治療用iPS細胞」関連において、世界でも有数の技術を持つ企業だったりもするのです。
事実、昨年3月には米国に進出した子会社「FUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.」が、iPS細胞の新工場の設立、稼働を果たしています。

とまあ、そんな高い技術力を持つ富士フイルムですが、実は2019年に、「F-hiSIEC(エフ・ハイシーク)」というiPS細胞による創薬支援用ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞の新規開発、販売を行いました。

え、何?
そ、創薬支援用…何だって?と思いますよね。
「ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞」。
簡単に説明すると、世界有数のiPS細胞の高い技術を持つ富士ソフトは、その優れたiPS細胞技術を使って、人間の腸の人工細胞を擬似的に作って製品化した、というわけです。

どうしてそんなものを作ったか。
一般的に薬というのは人間の体内に取り込まれると、小腸の細胞から吸収されて、全身に行き渡ります。
ということは小腸の細胞を擬似的に作ってやれば、その薬剤の効き目や適量などの細かいデータも判るようになります。
そのため創薬、つまりは新薬の開発に、この技術が欠かせない、というわけです。

上の商品説明では、何を言っているか普通ではわからないことが書いてありますが、要は「今までの新薬開発で使われていた一般的な細胞に比べて、遥かに高精度ですよ」という内容です。
で、ちなみにこちらの「F-hiSIEC」、お値段お求めやすく1セット13万円。
って、高ーっ!…いのかどうか全くわかんねえーっ!


富士フイルム

人工増殖が困難なノロウイルス

さて。
今回の富士フイルムによる「ノロウイルス増殖」というのは、この「F-hiSIEC」を用いての研究成果ということのようです。

そもそも、ノロウイルスというのは人工増殖が非常に困難なものなのです。
これはどういうことか。
前にも書きましたが、ウイルスというのは細胞を持っていないので、単独で細胞分裂によって増えることができません。
そこが細菌とは大きく違うとことです。
ウイルスは何らかの細胞の働きを借りることで、つまりはその宿主の細胞の中に入り、寄生することで増えるのです(絶対寄生性)

上の記事に書いたことを簡単に説明します。(既読の方は読み飛ばして結構です)

例えばノロウイルスが何らかのかたちで、人間の体内に入ります。
ノロウイルスが人間の腸管内の細胞にまで到達すると、この腸管細胞の中に侵入します。

ウイルスは細胞はないけれど、自分がどんな生物なのか、その設計図である遺伝子(核酸)は持っています。
それに基づいて、人間の細胞に自分の遺伝子(核酸)コピーをどんどん複製させて作らせます。
元々構造がシンプルで最小限しかないので、一旦作り出されたら案外簡単に増えることが出来ます。
これがその細胞内でどんどん増えると、やがてその細胞から自分のコピーウイルスを外にばらまきます。
するとさらにそれらが別の細胞内で同じことを繰り返し、どんどん増殖していきます。


静岡新聞

これらがある程度進むと、やがて人間の健康上に様々な症状が現れます。
ノロウイルスだったら、嘔吐や下痢などですね。
これは、ウイルスが侵入し、複製され、ばらまかれることでその細胞が破壊されるからです。
破壊された細胞が一定レベルを超えた段階で、感染が成立し、症状が引き起こされます。

しかし、ウイルスは各々入り込める細胞に違いがあります。
例えば、目下巷で騒がれている鳥インフルエンザのウイルスは鳥の細胞に入り込むことが出来ますが、人間の細胞には入りこみません。
かたやノロウイルスは、人間の細胞に入り込むことは出来ますが、犬や猫の細胞には入りこめません。
ウイルスが細胞内に入り込めない、ということは、遺伝子コピーによる増殖が出来ないということです。
増殖出来ないと、感染しないので、病気になりません。

そんなわけで、ノロウイルスというのは人間の腸管の細胞の中でしか増殖しないのです。
で、このことはノロウイルスへの対策研究を大きく遅らせる要因でした。
何故なら、ウイルスの研究を進めるためにはウイルスの培養が必要だからです。

例えば、ある薬剤がノロウイルスを実際に抑えられる、除去できるか(不活化、といいます)。それを確認することが難しいため、ノロウイルスに有効な薬というのは開発が難しかった。
これまでノロウイルスにワクチンや抗ウイルス薬が存在していなかったのもそのためです。


東京都感染症情報センター

iPS細胞を利用してノロウイルスを増殖

しかしながら、これを今回富士フイルムが自社製品「F-hiSIEC」を用いて増殖に成功した。

先にも書いたように、この「F-hiSIEC」というのは、人間の腸管細胞をiPS細胞によって疑似的に再現したものです。
ということは、これをうまく使えば人間の腸管細胞で増殖するノロウイルスを増殖できるかもしれない、と考えたのでしょう。
結果、富士フイルムは5日間の培養期間で164倍にまで増殖させることに成功した。

国内での感染が確認された主要6種類の遺伝子型のヒトノロウイルスを「F-hiSIEC」に感染させ5日間培養した結果、5日目における同ウイルスのRNA数が、初日と比べて最大164倍高まることを実証しました


富士フイルム

えーとこれ、意味、わかりますかね。

ウイルスというのは遺伝子(核酸)を1種しか持っていません。
DNA(デオキシリボ核酸)かRNA(リボ核酸)か、そのどちらかです。
よってそのどれかを持っているかによって、ウイルスはDNAウイルスかあるいはRNAウイルスとに分けられます。
ちなみに、新型コロナウイルスはRNAウイルスであり、そのRNAを人工的に増幅させる遺伝子検査がPCR検査(正確には逆転写させるRT-PCR検査)です。
って前にも書きましたね。

で、ノロウイルスも同じくRNAウイルスです。
ノロウイルスは人間の腸管の中に入り、先のように自身の核酸(RNA)を細胞の働きによって多量に複製させます。
そしてこのRNAを同時に増殖させたタンパク質の外殻(カプシド)がくるむことで増殖を果たし、やがて多量のウイルスが細胞を壊して出ていきます。

つまり先の試験結果では、iPS細胞の中で培養させた結果、ノロウイルスがその細胞内でRNAを165倍に増やすことができた、という意味です。

これらの技術を使えば、ノロウイルスのワクチンや抗ウイルス薬の効果データ、安全性などがより詳細に把握が可能になります。
なお、開発元の富士フィルムはこの研究成果を、先日1月26日、「細胞アッセイ研究会」のシンポジウムにて発表した、とのことです。


富士フイルム

まとめ(と急速に進むノロウイルスの研究)

今回は富士フイルムの開発結果についてお話しましたが、しかしこれのみならず実はノロウイルスの研究はここ近年、以前に比べると急速に進んでいます。

年末に記事↑も書きましたので、詳しくはそちらを読んでいただければ判るかとも思いますが、今やノロウイルスはワクチン開発も含めて、後もう少しといったレベルにまで至っているのです。

例えば、昨年末には、大手化学メーカーである「花王」がノロウイルスの失活評価技術を独自開発し、発表しました。

このように、人類がノロウイルスを克服出来る日も、そう遠くはないのかもしれませんね。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

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