衛生管理というのは何事にも重要です。もし衛生管理をしていない加湿器を使ったら、あるいは温泉に入ったら、人が死ぬかもしれないのです。
って、ええっ!?そんな奇妙で怖いことがあるのでしょうか。
実は、あります。
その犯人は、レジオネラ菌という細菌です。
ご存知の人もいるかもしれませんが、今回はそんな冬の怖いレジオネラ菌の話を、ぐぐっと深めに掘っていきたいと思います。

なおこの記事は、前々回、前回、そして今回と、三部構成でお話させて頂いています。
(こちら③は「後編」となります)

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

日本でのレジオネラ症感染はどうなっているのか

(こちらは三部構成の「後編」になりますので、もし以下の「前編」「中編」をお読みでなければそちらを最初に読んでいただくと理解がより深まります)

たっぷりガッツリ、三部構成にてお届けしています、レジオネラ菌の話。
本当はこれ、1回だけで終わらせるはずだったですが、調べたり書いたりしていくうちに、あれよあれよと長編へ…。
でも、今回でようやく完結です。

「前編」では、レジオネラ菌の基礎的なお話をさせて頂きました。
「中編」では、日本のレジオネラ症事情ということで、国内最初にして最大となってしまった宮崎県でのレジオネラ症集団感染について、その経緯と要因を追うことによって実はぼくら食品衛生においても重要な問題提起をしていることを知りました。
これ、かなり面白いので、未読の方は是非読んでみてください!
必ずや最後には、なるほど、と唸らされること必至、の隠れ神回です。

そして今回は、その日本のレジオネラ症事情についてを引き継ぎながら、いい加減、「加湿器とレジオネラ症」に着地出来るように頑張ってお話させていただきます。
もうあんまり寄り道しないからね!

レジオネラ症は増えている!?

というわけで、昨今の日本のレジオネラ症事情について触れていきましょう。
前回の話題だった2002年の「日向サンパーク温泉」によるレジオネラ症集団感染。
これは当時、ちょろちょろと起きていたレジオネラ症感染において、最も大規模なものでした。

しかしこれらをきっかけに、レジオネラ症は注目を浴びていくとともに、各地でのレジオネラ症の報告が上がっていきます。
結果、毎年結構な数のレジオネラ症の感染や問題が、そこかしこで挙げられるようになります。

例えば、つい先日1月19日にも、大分県のスパの浴水から基準値の約100倍のレジオネラ菌が検出されたと発表されていました。

さて。
そんなレジオネラ症の感染者が、ここ20年で最も多く発生したのはどの年だか、わかりますか?
さくっと正解を答えちゃいますが、実は今からたったの2年前、2019年なのです。

というのも実はレジオネラ症は、近年にかけて、年々目を見はるほどに増えているんです。
これはもう、グラフを見れば一目瞭然です。
それこそキレー、に右肩上がりで上昇しています。


全国水利用環境衛生協会

見てください。
1999年にはわずか年間56名だったレジオネラ症が、10年後の2009年には717名。
10年でなんと、12倍以上です。
しかもそれが更に勢いをどんどんと増し、その10年後の2019年には、遂にピークの2,314名を記録することになります。
20年前の1999年から比べれば、なんと41倍以上にもなっているんです。

ちなみに昨年はというと、さすがにコロナウイルスの影響もあってか、少しばかり減ってはいるものの、それでも2000件以上です。
なおこのグラフは「公益社団法人全国水利用環境衛生協会」さんによって2021年にはいって作られたものですが、すでにこの段階で今年12名がレジオネラ症とされていることになります。
まだ今年始まって間もないうちに、です。

つまりそれだけ、レジオネラ症というのは、今も全然進行形で問題になっているものであり、決して他人事ではないぞ、ということでもあります。

最も、近年これだけ増えているには、それだけの理由が幾つか考えられます。

よく言われている要因の一つのは、高齢化の進行です。
レジオネラ症というのは、高齢者が感染しやすいもの。それ以下の年代では、ほとんど感染しないか、しても無症状で判らなかったり、せいぜい軽い発熱程度で終わる(ポンティアック熱)ことが多いのです。

とはいえ、さすがにこの15年程度でそこまで増加の比例がしている、というのもちょっとどうよ、とも思いますよね。
それより何よりも最大の理由は、レジオネラ症の診断技術が高まったことでしょう。
つまり、レジオネラ症が増えた、というよりもレジオネラ症であることを検出できる技術が高まり、広まった結果、その報告数が増加した、ということです。

というのも90年代くらいまで、レジオネラ症の診断法はかなり難しいものであったと言われています。
ぼくはここら辺の専門ではないので余り踏み込みませんが、初期段階では他の肺炎と一見症状に変わりがない。
しかもレジオネラ症は、特殊な検査でしか診断できなかったということです。
PCR検査だって、まだそこまで普及してもいなかったとか。
しかしその後、検査技術の発達によって2000年代くらいからようやく容易に検査が可能化できる検出キットが世に出ます。
さらには2011年には遺伝子検出検査のLAMP法が保険収載されるなど、体制的にも整備が進んだ結果、診断数が増加した、ということです。

近年では、PCR検査のほか、感染者の尿を調べることで、そこにレジオネラ菌の成分の一部があるかどうか(尿中抗原)によって以前よりもはるかに簡単かつ迅速、正確に検出できるようにもなってきたようです。
そのため以前よりも正確、かつ簡易的に感染者が検出出るようになった、ということです。

どうして加湿器が危ないのか

さあ、ようやくここまで到達しました。
先を急ぐとしましょう。

近年、レジオネラ症の要因として増加し、また注目されているのが、加湿器によるものです。
そういや20年前くらいまではそうでもありませんでしたが、そういえば加湿器って今、どこにでもありますものね。
その普及に伴って、この加湿器によるレジオネラ症感染がしばしば問題視されるようになってきました。

では、どうして加湿器でレジオネラ症に感染するのでしょうか。
それは、レジオネラ症の感染への経緯を見ればすぐにわかります。

そもそも、レジオネラ菌による感染症は、人と人との接触では感染しません。
では、レジオネラ菌は、どのように人間に感染するのでしょう。
どうやら、レジオネラ菌に汚染された水が原因のようだ。
それは前編で詳しくお話しました。

循環水などのように滞留して排出されない水は、その中で様々な微生物が増殖する。
アメーバーなどの原生動物もその一つです。
アメーバーはこういう滞留水が大好きです。
アメーバーは水の中で増殖した自分よりも小さな細菌を食べて生きています。
自然界では数少ないレジオネラ菌もその餌の一つになります。
しかし、レジオネラ菌が他の細菌と違うのは、アメーバーに摂食されても生きており、逆にアメーバーの中で増殖する、ということです。
これによってアメーバーの中で増殖を進めたレジオネラ菌は、やがてその細胞を破ってまた水中に拡散します。
これらのことが繰り返されることによって、あまり増殖をしないレジオネラ菌も、時間をかけて増殖することになります。

このことは、循環水という閉ざされた水の中で起こることであり、またある程度の時間が、つまりその水を長らく滞留させておく時間という要因が必要になります。
循環水システムの温泉施設のお湯が問題になるのも、そのためです。
では加湿器はどうか。
加湿器というのも、長時間、同じ水を貯蔵し、使うものです。
これによってそのタンクの水の中に、同様の仕組みでレジオネラ菌が増殖してしまうこともあるのです。
と、ここまではわかりましたね。

では、どうしてそれが、タンクの中にあるレジオネラ菌が人間の中に取り込まれ、感染するのでしょうか。
人から人に感染しないのであれば、どうやって感染するのでしょうか。

さあ、ここで一番最初、前編の冒頭に出した、アメリカのホテルで起こった最初のレジオネラ症の話を思い出してください。
あの事件は、何が原因で発生したのでしょうか。


The Bellevue Hotel

そう、
ここでは、ホテルの冷却塔で使われていた循環水がレジオネラ菌によって汚染されていたのです。
そしてその飛沫を受けたエアコンの室外機がそれを受け、そしてレジオネラ菌の混ざった送風を在郷軍人の集会会場内に送ってしまっていた。
で、それを吸いこんだ参加者が、肺炎を起こした。

いいですか、
送風で漂っていた微粒子を患者の肺が吸い込み、それによって肺に炎症、つまりは肺炎を起こした。
これは完全なる「エアロゾル感染」です。

「エアロゾル感染」。
これって昨年あたりから、新型コロナウイルスでもしばしば疑われ、よく出てきた単語ですよね。
新型コロナウイルスはエアロゾル感染するのか、って話をそういえば一時期よく話題にされていました。

「エアロゾル」というのは、空気中を浮遊し漂う微粒子です。
直径5μm以下という非常に小さいエアロゾルが、レジオネラ菌を包みます。
で、これを人間が吸い込む。
それによってウイルスを取り込んでしまい、感染する。これが「エアロゾル感染」です。

もう一度、アメリカでのレジオネラ集団感染の話を見てみましょう。
循環水で増殖したレジオネラ菌を含んだホテルの冷却塔の水飛沫を、空調の室外機が外気として取り込んだ。
で、それを集会会場の室内に、送風に含まれたエアロゾルとしてバラまいた。
そしてこのレジオネラ菌を含んだ微粒子、エアロゾルを吸い込んだ人が気道感染し、レジオネラ肺炎となってしまった。

すなわち、レジオネラ菌への感染経路は、レジオネラ菌を含んだエアロゾルの吸引なのです。
勿論、エアコン以外にも、レジオネラの感染経路は色々あります。
ホテルのロビーなどの噴水や、野菜や植物の噴水、シャワー、などなど。
こうした水がレジオネラ菌に汚染されていた場合、そのエアロゾルを吸い込むことで、レジオネラ肺炎となります。

実は温泉でのレジオネラ症感染も同じです。
直接そのお湯で感染される、まあそういうケースもないわけではありませんが、多くは湯気だったり施設で設置されているミストなどで感染するのです。

もうここまで話せばわかりますね。
加湿器(超音波式)は水を霧状にして室内に放出することで湿度を高める機械です。
では水をほとんど交換せず、また内部洗浄もしないままにしている加湿器。それらがレジオネラ菌に汚染されてしまった場合、どうなるか。
そんな加湿器が出すが危ないという理由が、ここまで話せば見えてくることでしょう。


広島県

加湿器で発生したレジオネラ症集団発生

実は加湿器によるレジオネラ症感染は、以前から少ないながらも何件かの報告がなされていました。
まずは1996年、慶応大学病院で新生児4名が肺炎を発症しており、うち1名が死亡。レジオネラ症の集団発生が疑われます。
そしてこの際の原因として、給湯設備やシャワーヘッド、ミルク加温機などに加え、加湿器が挙げられました。
恐らくこれが国内最初の、加湿器によるレジオネラ症感染ではないか、と言われています。

そしてその後、2000 年に広島で、やはり新生児がレジオネラ肺炎を発症。
これは加湿器が原因であると検出され、認められています。
(その他、ミルク加温器などからも検出あり)
またその2年後に福島県若松乳児院で、こちらでは8名の乳幼児がレジオネラ症に感染。
初の乳幼児のレジオネラ症集団感染となったのですが、このときは原因の究明が出来ませんでした。しかし、恐らくは加湿器であろうと結論付けられています。

と、このように加湿器が関わるレジオネラ症というのは幾つかの事例はあったものの、数としては非常に少なかった。
やはり入浴施設でレジオネラ症を患う例が圧倒的に多かった。
稀に、ぽつりと怪しい事例が出る程度でした。

しかしこれが大きく注目されたのは、2018年のこと。
ある事件をきっかけにして、加湿器によるレジオネラ症感染の危険性が世間に知らしめられることになったのです。

2017年も終わりかかっていた12月22日から、年を経た後の翌年2018年1月15日。
その年末年始の1か月足らずの間に、大分県国東市安岐町の特別養護老人ホーム「鈴鳴荘」にて、レジオネラ症の集団感染が発生します。

その結果、3名が発症し、うち1名が死亡することに。
さらにはもう1名も、肺炎を治した後ではあったものの、再発によって死亡してしまいました。

直ちに究明調査が開始されたものの、浴場でのレジオネラ菌の検出はなされませんでした。
これまでのように、一般的にレジオネラ症となるとイコールお風呂が原因だ、となるものですが、そうじゃないとなると、さあどこだということになります。
しかしその後の精力的な追加調査から、感染者の居室で使用されていた加湿器のタンクや吹き出し口などから大量のレジオネラ菌が検出されることになります。
その数、なんと22万個(/100ml)。
22万個といったら、厚生労働省がこれ以上出たら至急対応せよと目標値として定めている10個未満(/100ml)の22000倍です。
つまり、それだけ大量のレジオネラ菌が加湿器のタンク内で増殖し、それがエアロゾルとして空気中に広がり、感染した、というわけです。

そしてこの件は、加湿器によるレジオネラ症感染の危険性を改めて問うものとなりました。
というのも、この加湿器は集団感染の1年ほど前に購入したばかりで、それほど古いものではなかった。
さらには施設職員によって週に1回、ブラシによって清掃されているのみならず、タンクの水はこまめに毎日交換されており、施設側としては清潔な手入れを心がけていたというのです。
だって、週イチのブラシ清掃+毎日の水交換で、そんだけやってたのに不衛生で人が死ぬってどういうことよ!?ウチの加湿器ってそんなことやってる!?ってそりゃあなりますよね。まあ、そりゃなったわけです。

では、そんなに入念に扱われていた加湿器が、どうしてそれほど多量のレジオネラ菌の増殖を促してしまったのか。
これはもう、不幸だったとしか言いようがないんですが、加湿器にはそういうこともあるんだ、ということを世に表すものとなりました。

というのも、この施設内で使用されていた加湿器は、これまで世間一般の家庭や家電量販店などにどこにでもあるような、いわゆる「超音波式加湿器」でした。
そもそも超音波式加湿器の仕組みとは、超音波によって水を細かく振動させ、気化させることで霧状(ミスト)にして室内に噴出して加湿するというものです。
ミストということは、要するにただの霧です。
つまりタンクの中の水を細かい粒にし、霧吹きのように空気中に出しているに過ぎません。(勿論それより遥かに微小ではあるのですが)
これではレジオネラ菌は死滅することないまま、ミスト内に生存させ、エアロゾルとして空気中を浮遊することになります。
そしてそのミストを吸引すれば、レジオネラ症に感染する危険が高まることになります。

そうか、超音波式加湿器というのは、要は「霧吹き」なんだと。
古い水を貯めておけば、その汚染された水を霧吹きが室内にばらまくだけの機械なんだと。
いや実はレジオネラ菌のみならず、カビや細菌など多くの微生物などを実は室内にばらまく危険性もあるのだ。
このことを世に知らしめたのが、この事件でした。

なお、厚生労働省はこの事件を踏まえて同年8月、「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」の一部を改正。
ここに、新たに加湿器についての項目を追加しました。

第五 加湿器における衛生上の措置
一、加湿器における衛生上の措置に関する基本的考え方
加湿器を発生源とするレジオネラ症は、国内では報告例は少ないが、新生児室、高齢者施設等における感染例が報告され、海外でも同様の事例が報告されており、感染源として留意することが必要である。(略)

加湿器では、タンク内等において生物膜が生成されることによって、レジオネラ属菌をはじめとする微生物が繁殖しやすくなる。そのため、加湿器のタンク内等に付着する生物膜の生成を抑制し、その除去を行うことが必要である。

この新たに加えた「加湿器における衛生上の措置」において、厚生労働省は加湿器の設備的な措置や、その維持管理における対策を定めるようになりました。
いうなればこれは超音波式加湿器によるレジオネラ症感染の危険性を、厚生労働省がお墨付き(?)で認めた、ということでもあります。

まとめ

ふう、ようやく三回目にして加湿器のお話をすることが出来ました。
あとはあちこちの生活便利系サイトで言われていることとそれほど変わらないので、わざわざぼくが話すほどでもないでしょう。

ぼくは別に家電マニアでも何でもないので、これがオススメとかはわかりません。
ただ、ぼく自身は一応、元から加熱式の加湿器を普段、事務所や自室で使うようにしてはいます。

前回も少し触れましたが、レジオネラ菌の死滅条件は60℃5分です。
そこで、加熱によって水蒸気を出すスチーム式であれば、そのリスクを極力落とすことが出来ます。
尤もそれのみならず、こまめなタンクやパーツの清掃、そして乾燥は必要なのですが。

皆さんも各事情に合わせて、今一度考え直してみるのもいいかもしれないですね。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

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