冬本番、牡蠣の美味しい時期になりました。
さて、皆さん。「牡蠣は殻に口を付けて食べないほうが食中毒になりにくい」という話が昨年末頃、ネット上で話題になっていたことをご存じですか?
今回はこの話が本当なのかどうなのか、食品衛生の専門家の立場から答えていきたいと思います。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

「牡蠣は殻に口をつけなければ食中毒にならない」てホント?

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もしこちらから来られた方は、まずは「前編」を最初に読んでください。)

というわけで、後編ですが。
その前に少しだけおさらいです。
まず、今回のお話は次のtweetをネタ元としています。

この話に対し、それが本当に正しいのどうかについて、専門家の知識を用いて検証したいと思ってます。

ですが、その前に一つだけご注意を。
改めてなのですが、今回の記事は別にしょうもない論破やマウント合戦ではなく、食品衛生の話として有益なことが多いので題材として取り扱わさせていただいているのであり、そこに他意がないことを再度、ここでも強調しておきたいと思います。

さあ。以上、そんな前置きのもとで、前編までをまとめます。
まとめるならば「生牡蠣を、殻を口に当てるのと身を外して食べるのでは食中毒になるリスクが違う」という話に対し、「いや、ほとんどないでしょ」と前編から話しています。
いや、「ほとんど」というのは曖昧なので、「それはない、違う」という立場がぼくであります。
あ、「リスクがない」と言っているわけではないですよ。「それらのリスクに違いはない」と言っているわけですからね。

そもそも、その場合考えなくてはいけない食中毒に対する食品衛生上の観点があります。
まず、「とりたての牡蠣の生食」であるという場合、次の問題が食中毒のリスク上考えられます。
なお、これらは並列ではなく、「考えられるリスクの対応優先順位」となっています。

牡蠣の病原微生物
  1. ノロウイルス
  2. 腸炎ビブリオ
  3. 病原大腸菌
  4. A型肝炎ウイルス

 

で、詳しくは前回に書いていますが、そもそも牡蠣特有のウイルス上の問題は、殻ではなくて身の問題です。
そして殻に由来するのは、付着している周辺の海水における細菌の問になります。
つまりは、「2・腸炎ビブリオ」と「3.病原大腸菌」です。

で、これらを踏まえて次の論に進むとしましょう。

その病原微生物による食中毒は、実際に起こりうるレベルなのか

いや、身に蓄積されるノロウイルスの話じゃないんだ、殻に付着した細菌汚染の話なんだ。
これについては、身だって海の中なら同様に汚染されるだろう、と話をしました。
それともうひとつ加えたいのは、そもそもその細菌汚染はどれだけ人間に健康上の被害をもたらすものなのか、ということです。

つまり、牡蠣の生食はなんと言ったってノロウイルスが一番怖いのだから、ノロウイルスについて話すのが本筋です。
ではなく食中毒菌、腸炎ビブリオや病原大腸菌の話を優先的にする意味はどれだけあるのか。
ここも一応見ていきたいと思います。

まず、普通に考えてみてください。
あなたは、海で海水浴をして、食中毒になりましたか?
海水を少しばかり口にして、食中毒になりましたか?
海で泳いだ翌日、それが原因で食中毒になったことはありますか?
あんまりならないのではないかな、と思います。

で。
この少なさこそが、生牡蠣を殻からすすって食中毒になる可能性です。
ちょっと前に海水の中にあったものをすすることの危険性において、「殻」の有無って関係あるのか、ということです。
その意味は食中毒の観点から、ノロウイルスよりも重いのか、優先されるのか。それは正直、ありえない。

牡蠣の殻が構造的に食中毒菌をわざわざため込む作りになっている、とはおよそ考えずらい。ていうか、ない。
となると、あとは純粋に凹凸で海水が溜まりやすい、というだけの話です。
海水を口に付けて食中毒になるのか、ということとそれは同じです。

いやいや、それでも腸炎ビブリオや病原大腸菌を含んでいる場合があるだろう。
夏場の海水はすでに腸炎ビブリオがかなり多くなっていることもあるはずだ。
成程、確かにありえます。
そもそも腸炎ビブリオの食中毒というのは、多量に菌を摂取することで発症します。
しかし健康な人間が腸炎ビブリオを発症するには、かなり大量の菌の摂取が必要です。
一般的には10,000,000個以上の菌の摂取が必要になります。
これを殻からだけ摂取する、というのはどうなんだろうと思います。

また、とった牡蠣は水揚げ後に数時間経ったものを食べるのでしょうか。
牡蠣を真夏に数時間放置して食べる状況って、あんまなくないですか?
例えば、確かに腸炎ビブリオは大腸菌などに比べると増殖スピードは速いです。
例えば大腸菌に比べて約2倍程度のスピードで増殖します。1個の菌が2個に細胞分裂するのは、10分弱だとも言われています。
結果、数時間の放置で結構な増殖が進みますので、増殖した海産物は確かに腸炎ビブリオの食中毒リスクが高まります。
しかし一般的に牡蠣の殻が微生物にとって増殖しやすい環境かといえば、そんなことは決してありません。
先にも書いたように、腸炎ビブリオの食中毒にはそれなりの菌数が必要です。
これを「殻からだけ」摂取することっていうのはあるのか、という気がします。

加えて腸炎ビブリオは高い温度に弱く、10度以下の低温ではほとんど繁殖が進みません。
しかも好塩性であるため、真水を嫌います。そのため水揚げ後の水洗いだけでかなりの菌数の洗浄が可能です。
つまり、とれたての牡蠣の生食の状態で「腸炎ビブリオ」の食中毒のリスクはそれほど高くはないということになります。
同様に病原大腸菌も然りです。
(それと食中毒の可能性として一応病原大腸菌を今回は挙げていますが、これ自体可能性としては低いですからね)

以上のことから、やはり「牡蠣の生食」についてはノロウイルスにこそ注意すべきです。

殻から貝柱を外すときの二次汚染は考えられないのか

もう一つ、重要なポイント。
一般の人と、この世界に生きるぼくらの観点の違いを一つ、あげておきます。
それは「二次汚染リスク」です。

もし仮に殻の表層の細菌の付着が問題であり、身に影響なく食べたいというのであれば、二次汚染対策をしなくてはいけません。
つまり、いかに貝の身に殻の細菌を付着させないか、です。
これ、現実的にできるのでしょうか。

殻の表層を触れた時点で、その手指や箸などの器具は汚染されています。
それで身に触れれば細菌による汚染が広がります。
それに、殻の海水が殻の内側に流れこんでもいけません。
殻に付着した海水が菌をそのまま身を汚染してしまいます。
だから絶対に殻の海水を一滴でも流れ込ませないように、牡蠣の身を取り除く。
勿論、殻に触れた指や機器は洗浄するなりアルコールを用いるなどで。
でもこれ、実際に出来ますかね。
はっきり言って普通に無理ですよね。
つまり、もし殻が病原微生物で汚染されているのだというなら、身だって汚染されるのが普通です。
(ていうかそもそも、海水が汚染されていれば身だって汚染されてるでしょ?)

二次汚染防止対策というのは、そんな簡単ではありません。
実際、多くの集団食中毒は「食材自体が汚染されていた」こともさることながら、それ以上に二次汚染であることが多いものです。
食品衛生というのをナメないでいただきたい。
みんな必死で対策を行っているのに、ときにほんのふとしたこと、例えば機器のちょっとした取り扱いなどで集団食中毒をも発生してしまうのが二次汚染の怖さです。

事実、2000年ちょっと前あたりまで、腸炎ビブリオはサルモネラに並んでの二大食中毒菌の巨頭でした。
これは、腸炎ビブリオの工程上の二次汚染が多かったからです。
加熱殺菌した食品が、しかし腸炎ビブリオに汚染された水や器具に付着し、二次汚染する。こんなことが立て続いていたからです。

殻に病原微生物が多い、というのであれば、その身を貝柱から外したときに生じる二次汚染を踏まえて生食する前に身の洗浄が必要になります。
それをせずに食べるのであれば、殻からだって身を外したって同様のリスクとなります。

「あたりにくい」とは、すべての食中毒についてなのか

そろそろ出揃いましたね。
殻だけが汚染されているということはない、海の中にいれば身だって同様に汚染されるはずだ。寧ろ身のほうが汚染されていることは多い。
そしてとりたての生牡蠣を食べるときに最も注意すべきは、やはりノロウイルスだ、これも話した通りです。

それと、もう一つ。
食中毒というのは実は細菌やウイルスだけが起こすものとは限りません。
それ以外にもアニサキスやクドアなどによる寄生虫によって起こされる食中毒もありますし、ヒスタミンなどの化学性食中毒、そしてフグ毒や貝毒などの自然毒によるものもあります。
場合によっちゃ、アレルギーだってあり得ます。

では牡蠣の場合、どんな食中毒が考えられるのか。

牡蠣で考えられる食中毒
  • 病原微生物による食中毒(ノロウイルス、腸炎ビブリオ、病原大腸菌、A型肝炎ウイルスなど)
  • 貝毒による食中毒
  • アレルギーによる食中毒

 

およそこのようなところでしょうか。
そして病原微生物による食中毒以外のものについては、殻はおよそ関係ありません。
つまり、殻から食べようが、身を外して食べようが、「なるときはなる」です。

このなかでも貝毒は見逃せないところかな。
「貝毒」とは、ノロウイルスなどと同様、牡蠣をはじめとする二枚貝が、植物プランクトンの毒を蓄積させることで生じます。
そんなに多いわけではありませんが、もしこれを食べれば食中毒になりますし、その場合もまた殻云々は全く関係なく食中毒になります。

勿論、貝毒に関しては行業組合や行政が定期的に検査をしており、規定値以上の貝毒が確認された場合は出荷がなされないようされているため、ここではそれほど大きく扱う必要はないでしょう。

ただし、貝毒は一度生成されてしまうと加熱しても除去できないということは触れておきます。

生牡蠣の規格は決まっている

さて、ここでもう少しだけ牡蠣の食品衛生に迫ってみましょう。

スーパーなどで販売されている「生牡蠣」は、二種類あります。
生で食べられる「生食用」のものと、そうではない「加熱調理用」のものです。
これは食品衛生法によって定められている規格によって分けられています。
それは、先の牡蠣の食中毒リスクを極力抑制するため、しかし牡蠣の加工・流通の妨げまでにはならないよう、定められたものです。

生食用かきの規格基準
  • 細菌数50,000以下(1g中)
  • E.coli(大腸菌)の最確数が100g中230 以下
  • むき身にした生食用牡蠣の腸炎ビブリオ数は、100以下(1g)

 

このように、菌数のそもそも高くないもの、汚染の低いもの。
それから、上と同様、食中毒菌として腸炎ビブリオの菌数の低いものを生食用としています。

ただしよく言われている話ですが、これらの「生食用」と「加熱調理用」の違いというのは、ただ単に牡蠣のとれる海域の違いでしかありません。
保健所による定期的な水質検査の結果、基準を満たした海域でとれる牡蠣を「生食用」とし、それ以外が「加熱調理用」です。

また食品衛生法ではこれ以外にも加工基準や保存基準なども定められていますのでそれらにも触れたいところですが、いい加減文字数もめちゃくちゃ増えていますので、そのうちもう少し牡蠣について掘り下げて取り扱うことにします。

まとめ

今回は牡蠣とその食中毒について、あるtweetをきっかけにお話いたしました。
「とれたての生牡蠣を食べる際に、殻からすすって食べるよりも、箸などで身を取って食べたほうが食中毒のリスクが低くなる、というのは本当か」といった意味の問題設定に対して、専門家の立場から考察してみました。
結論から言うなら、答えは「リスク的には同じだ」です。

まず、牡蠣の生食で考えられる食中毒というのは、次のようなものです。

牡蠣で考えられる食中毒
  • 病原微生物による食中毒
  • 貝毒による食中毒
  • アレルギーによる食中毒

 

なかでも多いのは、やはり「病原微生物による食中毒」です。
可能性の高い順番から、このようになります。

牡蠣の病原微生物
  1. ノロウイルス
  2. 腸炎ビブリオ
  3. 病原大腸菌
  4. A型肝炎ウイルス

 

これらのうち、状況からして1のノロウイルスと2の腸炎ビブリオには大きな差があるだろう、ということは今回後編で話した通りです。
更に言うなら、2と3、そして3と4にも同じくらいに大きな差があります。
つまり、ここにおいて最も懸念すべきは「ノロウイルス」一択です。

そしてこれらを考えた場合、とりたての牡蠣(数時間日中放置などを除く)においては「殻に口をつけて食べる」も「殻から箸で外して食べる」も違いはないものと考えられます。
理由は次の通りです。

牡蠣の生食において、違いのない理由
  • ノロウイルスやA型肝炎ウイルス、貝毒は殻ではなく身に蓄積している
  • 腸炎ビブリオや病原大腸菌は殻のみならず身も汚染している
  • しかし腸炎ビブリオや病原大腸菌においては、真夏日中下での長時間放置がなければ、それらが食中毒を起こすレベルにまでの増殖はしない。なのでとりたての牡蠣の生食において最も注意すべきは、やはり身に蓄積されているノロウイルスである。
  • 二次汚染リスクをも含めて、殻が汚染されていれば高い確率で身も汚染される
  • 生牡蠣の食中毒は病原微生物以外にも起こりうるし、その場合に殻は関係ない

 

くれぐれにもなりますが、この記事は別に論破やマウントが目的ではありません。
正しい食品衛生の知識を広げること、身に着けること、その研究を行うこと、などがその目的です。
ほんと、くれぐれも誤解のないようにお願いします。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

■□貴方の工場・店舗で悩んではいませんか■□
・どうやって防虫管理・衛生管理をすればいいか判らない
・今やっている防虫管理・衛生管理が正しいか判らない
・何か問題が発生したときの対応が判らない
・取引先や保健所の査察が不安だ
・でも余りコストもかけられない
だったら貴方が防虫・衛生管理のプロになればいいのです!

高薙食品衛生コンサルティング事務所にようこそ
  • 私達は、どんな工場、お店の方でも防虫管理・衛生管理のプロレベルに育成することが出来ます。
  • 何故なら、防虫管理・衛生管理のプロとは、基礎知識に加えて「正しい管理の仕組み」を作れる能力を持つ者のことだからです。
    この「管理の仕組み作り」を知るこそが、防虫管理・衛生管理のプロへの道なのです
  • そんな防虫管理・衛生管理のプロを育成し広めることで、日本の「食の安全安心」を、さらにより広く、より高くさせることが私たちの使命だと信じています
  • どうですか?
    そんな防虫管理・衛生管理のプロにあなたもなって、本当の「食の安全安心」を私達と一緒に広げていきませんか?