冬本番、牡蠣の美味しい時期になりました。
さて、皆さん。「牡蠣は殻に口を付けて食べないほうが食中毒になりにくい」という話が昨年末頃、ネット上で話題になっていたことをご存じですか?
今回はこの話が本当なのかどうなのか、食品衛生の専門家の立場から答えていきたいと思います。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

「牡蠣は殻に口をつけなければ食中毒にならない」てホント?

(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)

いやはや、毎日ホント寒くなりましたよねえ。
まさに冬本番。
皆さん、風邪などは引いていないでしょうか。
日々の体調管理、どうぞ気を付けるようにしてください。

さて。
寒くなると美味しくなるのが、牡蠣ですよねえ。
何を隠そう、ぼくも好物。
この時期は、カキフライから鍋、ソテーまで、牡蠣が恋しくなる季節です。

さて、そんな冬の風物詩たる牡蠣ですが。
丁度一か月くらい前のことでしょうか。
昨年の12月上旬くらいに、Twitterである牡蠣に関するツイートがバズっていたのをご存じでしょうか。
それを今回は取り上げながら、牡蠣と食品衛生についての話をしたいと思っています。

いやね、tweetの存在は割と早くから知っていたんですが、でも申し訳ありません。
年末の慌ただしさのなかでピックアップするのが遅れてしまいました。(本当は年末のノロウイルスの記事のときに少し触れようともしたのですが、長文になってしまったためスルーしました)
しかし。
新年もあけて、ようやく落ち着いてきたので、ここでじっくりと改めて取り上げてみたいと思います。

というのも、これ強調しておきたいんですけど、あのですね。
別にこのtweetに何かケチや難癖をつけたいだとか、論破したいだとか、そういう話ではないことを最初にご理解ください。
そういうのを一切抜きにしてこの話、食品衛生のプロとして真向から考えてみるのもちょっと面白いんじゃないかな、と。
そうすることで食品衛生として意外と示唆に富んでいる内容なんじゃないか、と改めて思ったからなのです。
そういう論破話ではないことを、まずはご理解ください。

と一応の断りを入れたうえで。
さあ、今回はこの「生牡蠣を食べるとき、殻に口をつけないほうが食中毒になりづらい」について少しばかり切りこんでいきたいと思います。

まずは、そのtweetを見てみましょう。
以下、引用させていただきます。

なお、このtweetは、「Kikka」さんなる方が、昨年2020年の12月7日にあげたものです。
で、この真偽についてTwitterで拡散を広げながらあれやこれや騒がれており、最終的には、しばらくのちにミスリードだったと訂正のツイートが上がる、といったことがみられました。

まあ、その経緯はぼくが云々語ることではないので、やめておきます。
ここではあくまで食品衛生の専門家の立場として、この真偽についてお話していきたいと思います。

なお再三になりますが。
くどいようですけど。くれぐれにもなりますが、この記事は別に論破やマウントが目的ではありません。
正しい食品衛生の知識を広げること、身に着けること、その研究を行うこと、などがその目的です。
ほんと、くれぐれも誤解のないようにお願いしますね!

と、そんなわけでやあっと本題に入るんですが。
これ、食品衛生を考えるうえでなかなか面白い論点や示唆を与えてくれているんですわ。
てなわけでまず、ポイントを整理しましょう。
このtweetにおける論点は、食品衛生の専門家としては以下の通りです。

「生牡蠣は殻に口をつけないと食中毒になりにくい」の論点
  • 対象の病原微生物は、「細菌」だけなのか(ウイルスは含まないのか)
  • 牡蠣は、生牡蠣なのか加熱されているのか
  • 牡蠣の病原微生物は「殻」に本当に「多くいる」のか
  • その病原微生物による食中毒は、実際に起こりうるレベルなのか
  • 殻から貝柱を外すときの二次汚染は考えられないのか
  • 「あたりにくい」とは、すべての食中毒についてなのか(細菌性、ウイルス性のみなのか)

 

凄いよ!
もう論点だけでtweetの文字数を超えているからね!

まあ、細かく言うならこれ以外にも「殻にいる細菌とは、食中毒菌のみのことなのか」だとかキリがない(でもこれも重要なファクターだと思いますが)ので、ここら辺までにしておきましょう。

ではこれらについて、一つずつ、重要なポイントについて考えていきたいと思います。

病原微生物は「細菌」だけなのか

まず、最初に考えなくてはいけないこと。
この話は、文章そのままに受け止めるのであれば牡蠣の食中毒として最もポピュラーな存在である「ノロウイルス」についての話を(正確には)していません。
というか、「殻に口をつけて食べると食中毒しにくい」という最初の文章と、次の「殻に細菌が多い」という話は全く違う話になります。
何故かといえば、漁師さんは「細菌」についての話をしているからです。

というか率直な話、この語り手のかたは「細菌」と「ウイルス」の区別がなされていない可能性が非常に高いと思います。
前回、二回にまたいでお話してきましたが「細菌」と「ウイルス」は全く違う生物です。
本当のことを話すとですね、実はこのtweetを読んだ最初のぼくの感想が、「あ、細菌とウイルスを混合しとるな」であり、それをきっかけに前回の記事を書いた、という経緯があります。
(前回書いたように、「”細菌”と”ウイルス”の区分が一般の人々にはしばしば混合されていて、それがネット上でも散見される」というのは、まさにこういう状況のことです)

上の記事で詳しく書いたことなので、ここであまり繰り返しはしません。
興味がある方は、上のリンク先を読んでみてください。
(とくに前編で詳細に書いています)

なので、ここでは簡単にしか話しませんが。
同じ食中毒の病原微生物ですが、そもそも「細菌」と「ウイルス」は別の生物です。
それやはもう、生物として全く違う、ということです。

食中毒菌とされる「細菌」は、細胞分裂によって増殖する「原生生物」です。
しかしウイルスは、細胞をもたない非生物です。
人間にとってはおなか痛くなんのは同じだろ、と言いたいところでしょうが、これらは完全に生物として違っています。

確かに一般的に「食中毒菌」なんて話をするときにノロウイルスが含まれているなんてことはざらにあります。
ですが、ノロウイルスのみを単体で扱う場合には、わざわざ「細菌」とは使わない。これが食品衛生の世界です。
だって、この文章ははっきりとノロウイルスの話をしていますからね。
なので、正確には「”細菌”の多くは牡蠣の“殻”にいる」ではなく、「”微生物”の多くは牡蠣の“殻”にいる」となります。

ちなみに上にも少し触れましたが、これは「微生物」に限った話なのか、というのもやはり少々気になるところです。
なぜなら食中毒を起こす細菌やウイルスは限られています。
ということは、漁師さんが言っているのは、「殻に多いのは食中毒菌のことなのか」「そうではなく、貝の可食部よりも殻の一般生菌数が高いという話なのか」も変わってきます。
まあ、一般的には前者だと解釈するのが普通だと思います。
その話は、3つめのポイントに関わってきます。

牡蠣は、生牡蠣なのか加熱されているのか

「細菌」だけの話なのか、それとも「ウイルス」を含んだ「微生物性食通毒」の話なのか。
これによって話が全く変わってくる、というのが最初のポイントでした。
一般の方々には小さい差のように思えますが、ぼくらからすればそれらは全く違います。
「そこはあかんだろ」というポイントにもなりえます。
というか、そもそも論的に、理解がまず出来ていたらそんな表現せんやろ、という話です。

で。
ここでは「細菌」のみならず「ウイルス」をも含んだ「微生物性食中毒」の話であるとしましょう。
となると、対象の病原微生物においては、「腸炎ビブリオ」に加えて「病原大腸菌」、そしてウイルスである「ノロウイルス」、それから少ないでしょうが「A型肝炎ウイルス」を含むものと解釈が広がります。

ただし、当然ながら優先順位というものがあります。
極端な話、100個の生牡蠣を食べて起こる食中毒の種類には確率論があります。
まあ、普通の話でこのあたりが、生ガキの食中毒における妥当な優先順位でしょう。
「あたりやすい」という確率論の話をするならば、この順番は重要です。

牡蠣の病原微生物
  1. ノロウイルス
  2. 腸炎ビブリオ
  3. 病原大腸菌
  4. A型肝炎ウイルス

 

さて。
次に重要というか、一応確認しておきたい重要なポイントが、「その牡蠣は生なのか、それとも加熱されているのか」ということです。
どんな文脈で出てきた話かはよく分かりませんが、文章からは「生の牡蠣」であることが明らかに想像がつきます。

ということは、これは「生の牡蠣を殻を開けて食べたとき」という場合の話であり、その際に「殻に口を当てる」のと「身を外して食べる」のとの比較の話である、と解釈して話を進めましょう。
そもそもしっかり加熱殺菌されているのが前提である話ならば、殻を口にあてようがどちらでも食中毒の懸念はありませんからね。

ちなみに腸炎ビブリオ、病原大腸菌ともに熱には弱いため、加熱による食中毒防止が有効です。
上にあるように、それほど高い温度ではありません。65℃5分の加熱で死滅させることができます。

ですが、ノロウイルスの場合、牡蠣の中心温度で85℃~90℃90秒の加熱が必要になります。
これはかなり高温での調理になるので、それが殻のままの牡蠣に対し実際に適切になされるかはなんともいえないところですね。(ていうか普通に無理でしょう)

牡蠣の病原微生物は「殻」に本当に「多くいる」のか

さあ、牡蠣の対象病原微生物は、「腸炎ビブリオ」「大腸菌」「ノロウイルス」「A型肝炎ウイルス」であるとした。
そしてこれらが牡蠣の「生食」において、その摂取方法、「殻に付いたまますする」のと「外して食べる」のでどう違うのか、という話であると、ようやく前提が定まりました。

で、ここからが本題です。
ではその殻に、先の病原微生物が多くいるのか、ということをこれから考えていくとしましょう。

繰り返しになりますが、牡蠣の生食での病原微生物による食中毒リスクは、次の順番です。
これらは並列ではなくて、上からの順が対応の優先度となります。

牡蠣の病原微生物
  1. ノロウイルス
  2. 腸炎ビブリオ
  3. 病原大腸菌
  4. A型肝炎ウイルス

 

で、このうちノロウイルスやA型肝炎ウイルスなどの病原ウイルスがどこにあるのかといえば、貝の身の中です。
というのも、カキは海水と一緒に、その中の植物プランクトンを食べて生きています。
この際に、汚水処理がなされきれなかった糞便がカキの養殖海域に流れ込むと、様々なウイルスがカキの体内に取り込まれます。
これが中腸線に蓄積し、それを人が生食などで食べることでウイルスに感染するからです。
これが、牡蠣によるウイルス感染です。
ぼくら食品衛生の世界では、普通に知られている事実です。
つまりこれらにおいては殻は全く関係ない、ということになります。

んじゃ、病原性細菌、例えば腸炎ビブリオや病原大腸菌については、どうなのか。
殻にいるんじゃないのか。
成程、確かに牡蠣が生息していた環境次第では殻に、それらの食中毒菌が付着している可能性は、あります。
それは確かに否定できない。
でも、はっきり言って殻に病原微生物が付着していたら海水の中で生きているのだから身だって当然汚染されています。
殻だけが汚染されているなんてことは、まずありえません。
つまりその意味からも、殻から外して食べる身だって当然すでに汚染されていることになります。

まとめ

いい加減、字数の限界が来てしまいました。
前編はここら辺までにしておきましょう。
でも結構、すでに提示されたtweetの問題点が結構浮かび上がってきていると思います。

後編は、これらを踏まえたうえでより論を進めてみたいと思います。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

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