年末年始あたりから急激に増加する、ノロウイルス。
そこでその年末年始に向けて、今から知っておきたいノロウイルスの正しい知識や最新の情報などについて、お話していきたいと思います。
なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

年末年始から急増するノロウイルス

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし「前編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)

 

いよいよ年の瀬。
もう2020年が終わりかかっている今日この12月30日ですが。

前編でも触れたように、山形県でのノロウイルスの拡大がやみません。
昨日の段階からさらに患者は134人が増え、しかもそのうち77人が幼稚園などの1~6際の幼児。
その結果、計239人にいたったことが報じられています。

 

このように、ノロウイルスは12月、年末年始から3月にかけてを年度のピークとし、各地にて発生を見えています。
その詳細は、前回で現最新であるデータを見ながら確認した通りです。

では今回は、さらにノロウイルスについてもう少し深堀りしながら、幾つかの報道なども交えながらより新たな情報にも手を伸ばしていきたく思います。


東京都感染症情報センター

ノロウイルスと細菌の違い

さて、そんなノロウイルスのお話をしていく前に、これちょっと触れときましょう。

というのも、一般の方々でよく目にするのが、「ウイルス」と「細菌」の混合、取り違え、です。
ネット記事やお話を目や耳にすると、「いやそれ細菌の話だよね」「ウイルスってどういうものか、基礎的なことすら判ってないで書いてるよね」ってのが時折あります。
つまり食中毒菌などの「細菌」とウイルス…というか特に顕著なのは新型コロナウイルスなどの「ウイルス」を一緒くたにして話をしているケースです。

これ、実は大きく違います。
年が開けたらゆっくりとこの話も取り扱おうとも思うのですが、このことは今回のこれからの内容においても何度か関係するお話なので、先にさっくりとだけ触れておきます。
なおあくまで今回は、判りやすさ重視でいきます。
細かいところは別記事で改めてフォローしますね。

というわけで、
「ウイルス」と「細菌」の最大の違い。
一言で言えばそれは、「細胞があるかないか」です。

細胞があるのが「細菌」。細胞がないのが「ウイルス」です。
つまり、細菌は細胞を持った生物(「原核生物」)ですが、ウイルスは細胞のない「非生物」です。

ウイルスというのは、タンパク質で遺伝子をくるんで作ったコピーロボットのような疑似生物みたいな存在なのです。
そして、その分だけ細菌よりも原始的で、その分だけ細菌よりも遥かに小さい。
それがウイルスです。

ちなみに今回の主役のノロウイルスは一般的な食中毒菌のわずか1/100程度の大きさでしかありません。
そんな小さな存在なので、そう簡単に目にすることは出来ません。
そうした微生物の中でも非常に小さな存在、それがウイルスです。

ひとくくりに「微生物」といっても色々あります。
微生物というのは、非常に小さな生き物をひっくるめて言う名称なので、そこには様々なものが含まれます。
カビやコウボなどのような真菌。
これはもっと大きく、人間などと同じ、細胞に「核」を持った「真核生物」です。
そして食中毒菌などの「細菌」。これはそれよりも小さくて顕微鏡でしか見えない、細胞に「核」を持っていない「原核生物」です。
そして更に更に、ずーっと小さな電子顕微鏡でしか捉えられない「非生物」がウイルスです。

まずこれがファーストステップ。
生物としての違い、です。

で、次のステップは、「生物として違うから、当然、その増え方も違うよ」という「生き方」の違いです。
ここをよく間違う人が多いです。

微生物は、栄養をもとにして増えることで生きている存在です。
カビを思い出してください。
お風呂の汚れと水分を餌に、カビは菌糸を育て、胞子をばらまき、増えていきます。
それがカビという生物の「生き方」です。
微生物は皆、「増殖して生きる」のです。

では、同じ「微生物」でも、原核生物であり細胞を持っている食中毒菌などの「細菌」と、細胞を持たない非生物である「ウイルス」は、どう「生き方」、つまりは「増え方」が違うのか。

細菌は栄養をもとに体をぶよんと2つに分け、「細胞分裂」で増殖します。
それは、細菌には細胞があるからこそできる技でもあります。

だから、細菌は食品の中でも増殖が可能です。
例えばある食品を常温で放置していると、その食品の水分と栄養を使って、細菌が食品内に増殖します。
あるいはその増殖過程で毒素を作る細菌もいます。
これを人間が食べると、増殖した細菌やその毒素などを食べることになります。
細菌による食中毒は、こうして起こります。

では細胞を持たないウイルスはどう増殖するのか。
先にぼくはウイルスに対して、こう言いました。
「ウイルスとは、タンパク質で遺伝子をくるんで作ったコピーロボットのような存在だ」と。

あ、コピーロボットって、若い人はわからないかな?(汗)
コピーロボットというのは、藤子不二雄の漫画「パーマン」に出てくる、鼻を押すと押した人をコピーしたかのようにその人と同じ姿・形・性格・能力になるぬいぐるみのようなロボットのことです。
って、そこの昭和ヘッドな諸君なら、勿論おなじみだよね!ね、ね!?

さて、「ウイルスとは、タンパク質で遺伝子をくるんで作ったコピーロボットのような疑似生物みたいな存在だ」とはどういうことか。
そう、細胞を持たないウイルスは、人間などの他の生物の細胞に入り込み、その細胞の仕組みを使って、自身の遺伝子に基づいて自らを複製させるのことで増殖するのです。

この際、ウイルスによって入り込める細胞に違いがあります。
目下巷で騒がれている鳥インフルエンザのウイルスは鳥の細胞に入り込むことが出来ますが、人間の細胞には入りこみません。
今回の話題にしているノロウイルスは、人間の細胞に入り込むことは出来ますが、犬や猫の細胞には入りこめません。
入り込めない、ということは、増殖出来ないということです。
増殖出来ないと、感染しないので病気になりません。

…というのが、まず一番最初のウイルスと細菌の違いのお話です。
これを踏まえておくことが基本中の基本です。

花王がノロウイルス不活化研究の新手法を開発

さて、理解出来ましたかね。
そんなわけで、ノロウイルスというのは人間の腸管の細胞の中でしか増殖しないのです。

で、このことはノロウイルスへの対策研究を大きく遅らせる要因でした。
何故なら、ウイルスの研究を進めるためには試験管培養が必要だからです。
だから、ある薬剤がノロウイルスを実際に抑えられる、除去できる(不活化、といいます)かを確認することが難しいため、ノロウイルスに有効な薬というのは開発が難しかったのです。
これまでノロウイルスにワクチンが存在していなかったのもそのためです。
(これについては後でまた話します)

では、今までどうしていたのか。
人間の細胞でしか増殖出来ず、試験管培養が難しいノロウイルスに変わって、似たような性質を持った仲間のウイルスを代替えに使って実験していたのです。
例えば代表的なものが、猫の細胞で増殖する「ネコカリシウイルス」ですね。
でもやっぱり似ているとはいえ、ちょいちょい違っていたりします。
別の代替ウイルスである「マウスノロウイルス」はアルコールでも不活化できるのですが、人間に感染するノロウイルスがそれと同じかどうかはわからなかった。
こうしたこともあって、ノロウイルスの研究は余り効果的に進んでいませんでした。

つまり、ノロウイルスを克服する研究のためには、まずその「人間の細胞でしか増殖しない」という最大のネックを何とか克服しなければいけなかったのですね。
そこで、人間の腸管細胞を人工的に作り出し、長期間培養できる技術(「オルガノイド」)が求められるようになります。
これによって人類は、少しばかりノロウイルス克服に一歩、大きく近づくことが出来ました。

しかしここにも大きな壁がありました。
この疑似腸管であるオルガノイドは非常に不安定で脆いため、ノロウイルスが不活化したかが分かりづらい、ノロウイルスに効果があるのかどうか評価しづらい、ということです。
例えば次亜塩素酸ナトリウム液などの薬剤に含まれている界面活性剤などが、そのオルガノイドを壊してしまうのです。
そのため、これまで不活化の研究がなかなか進みづらかった。

さあ、ここで洗剤やトイレタリー、石鹸などを扱う日本大手化学メーカー、「花王」がそれを一歩、進めました。
そう、あの「花王」です。
洗剤の「アタック」や「ニュービーズ」などの、あの「花王」です。

今年、2020年の7月。
花王は、その自社独自の技術によってその腸管オルガノイドにノロウイルスを感染させ、その増殖を抑えられているかどうかを独自評価することで、ノロウイルスに効く薬剤であるかどうか、その評価方法を編み出したのです。

その結果、何が判ったか。
まずノロウイルスは、次亜塩素酸ナトリウムで37℃1分で不活化します。
これに加え、過炭酸ナトリウムなどの一部の酸素系漂白混合物によっても効果がある(37℃10分以上)ことが判ったのです。

このノロウイルスへの評価方法は、これから大いに応用の可能性が考えられます。
例えば、ノロウイルス抑制に効果のある薬剤の開発。
例えば、ノロウイルスのワクチンの開発。
例えば、ノロウイルス用の抗ウイルス薬の開発、などなど。

そしてこれらの評価技術の特許を「花王」は、先日クリスマス・イブの前日である2020年12月23日、無償提供することを発表しました。

おお!
なんという、花王から人類に向けたイキなクリスマスプレゼントであったことか!
花王さんは、自社の理念である「未来の命を守る会社になる」を貫くため、特許による利益よりも社会への、未来への貢献を選んだ、ということです。
やるやん、花王!
さすがぼくらの花王!
ありがとう、花王サンタさん!

…ということが上の記事にかかれていたので、意訳してみました(笑)。
あ、この開発には花王さんのみならず、北里大学との共同研究が行われたようです、一応。

ノロウイルスは酸性アルコールで不活化できる!?

また一方で、今年の秋頃、ノロウイルスに関する非常に興味深い研究発表が、大阪大学の佐藤准教授とその研究グループによってなされます。
それは、「酸性アルコールはヒトノロウイルスの増殖をほぼ完全に抑えることが出来る」というものです。

 

ノンエンベロープウイルス(エンベロープという外殻のようなものを持たないウイルスのこと)であるノロウイルスは、そのため乾燥にも強く、アルコールでも不活化が難しい、というのがこれまでの通説でした。

しかしアルコールのpHを3から4程度に下げることでアルコールの効果を高める酸性アルコールというのがあります。
これは「もしかしたらノロウイルスにも効くかもしれない」とも言われていました。
でもそれは正確には判らなかったのです。
ここにも先の問題が壁を作っていました。
そう、「ノロウイルスは人間の腸内細胞でしか増殖しない」です。
確かめるすべがなかった。
代替ウイルスの実験でも、正直判らなかったのです。

しかし佐藤教授らは独自の人工腸管細胞を開発。
これを使うことで、ノロウイルスの様々な不活化実験を行ったのです。

そしてこの結果、酸性アルコールが次亜塩素酸ナトリウム同様、大きくノロウイルスに効果を果たすことを突き止めました。
(約200万個のヒトノロウイルス粒子を含む溶液に対し、3~9倍容量の酸性、もしくはアルカリ性アルコールで30秒間処理)

この酸性アルコールというのは、中性のアルコールにクエン酸(市販のレモン果汁など)や重曹、硫酸マグネシウムなどの食品添加剤を加えることによってpH調整が出来ますし、また手指消毒にも使用が可能です。
ということは、次亜塩素酸ナトリウムだけでなく手軽にアルコールでノロウイルスの対応ができる、ということになる。
何せ次亜塩素酸ナトリウムは様々な変色や脱色、金属腐食を起こすため、使用に制限があるので、これは大きいメリットでしょう。

しかも教授は、数あるノロウイルスのうち、最流行型(GII.4)には、pHを下げない中性のアルコール消毒剤でも効果がある、とも報告しています。
しかし一方で、その研究によって現在、市場で出され「ノロウイルスに効果がある」とうたっている市販のアルコール消毒薬の中にはほとんど効果がみられないものがあることも確認されています。
教授らの見解では、その原因は各商品に含まれている添加剤が不活化を邪魔してしまっているのではないか、とのこと。

いずれにせよ、この研究発表は今後、抗ノロウイルス消毒薬の開発などに大きく役立つものとなることでしょう。

デンカがベルギーでノロウイルスワクチンを臨床試験開始

そして一方で、こっちも興味深い。

日本の化学肥料やセメント、その他有機産業の総合化学品会社である「デンカ」は、かねてよりノロウイルスワクチンの開発に勤しんでいました。

しかし先の通り、ノロウイルスのワクチン開発にも同様の壁がそびえ立ちます。

そもそもワクチンは、ウイルスなどの病原体から作るものです。
これを無毒化もしくは弱毒化させたものを人体に接種し、体内に病気に対しての抗体を生じさせるのがワクチンの働きです。

そのため、まず最初にノロウイルスを増殖させる作業が必要になります。
ところが、先から話す通り、ノロウイルスは人間の腸内でしか増殖しない。
これがノロウイルスのワクチン開発が進まなかった最大の理由です。

それに加えてノロウイルスには多くの遺伝子型(株)があります。
人間に感染するノロウイルスのうち、その遺伝子株は30近くもあり、それぞれ抗原性が違う。
それらの流行が毎年変化するため、効果的なワクチンの開発がなされずらい、ということも一つの理由でした。

ところが。
そんな中、今年に入ってインフルエンザワクチンで知られる化学大手メーカーのデンカが、北里大学の教授とライセンス契約を結び、ワクチンを開発した、とのニュースが報じられました。

デンカは2015年に独アイコンジェネティクスを子会社化した。
アイコンは植物の遺伝子組み換え技術を活用し、抗体や抗原などの高分子たんぱく質を低コストで短時間に産生する技術を持つ。
この技術を用い、ウイルス様中空粒子(VLP)を抗原としたノロウイルスワクチンを開発している。

 

この後、世界的な新型コロナウイルス騒動などによる紆余曲折があったようなものの、秋に入ってようやくベルギーでのワクチンの臨床試験を開始した、との報道があがりました。

デンカは9月23日、同社のグループ会社であるIcon Genetics GmbH(=アイコン社)が、本社を置くベルギーにおいてノロウイルスワクチンの第1相臨床試験を開始したと発表した。
今回の臨床試験は、アイコンで開発中のノロウイルスワクチンを健康な成人へ投与した際の安全性と免疫原性を評価することを目的としている。
アイコンは今年2月にベルギーの保健当局に治験届を提出し、当局の承認のもと同国内のヘント大学病院ワクチンセンターで実施する。

こちらの動きも注目したいところですね。

まとめ

今回は、前編、後編と二部にわたってノロウイルスについてのお話をさせていただきました。
そしてこちら後編では、ノロウイルスの最新の研究結果や情報についてご紹介させていただきました。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

 

 

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