虫の中でも、ある種の虫についてはしばしば「害虫」という言い方がされます。
ですが、じゃあ「害虫って何?」「害虫ってどれ?」と言われても、今ひとつ曖昧だったりするものです。
そこで今回はこの「害虫」について、どのようなものがあって、どう区分されているのかを詳しく追ってみたいと思います。
今回、そして次回と、二部構成でこれらについてお話させていただきます。
(今回はその後編となります)
こちらでは「衛生害虫」に対する「経済害虫」というもの、そして人における「害虫」の歴史についても触れていきたいと思っています。

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

「害虫」の始まりと歴史

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし以下の「前編」をお読みでなければそちらを最初に読んでいただくと理解がより深まります)

 

そんなわけで、さあ後編です。
ちょっと今回は、壮大な話になります。
壮大、というより「社会科的」、「社会科学的」な論点からのお話となります。
というか、ならざるをえない。
何故なら、今回話す内容は、実はそれそのものが「虫と人間の関わりの歴史」に触れずにいられないからです。
だって、「経済」の「害虫」とはそういう意味だからです。

おっと。
そんな壮大な本題に入るその前に、少しだけ、さらっと前回のおさらいをしておきましょう。

さて。
前回、今現在、「害虫」というのもに明確な定義や区分はない、というお話をしました。
強いて言うならば、こういう区分があるよという「それらしいもの」についてお話をさせていただきました。
それがこの区分です。

で、前回は「衛生害虫」とは何か、というお話をさせていただきました。

 

と同時に。
冒頭でぼくは「今現在」という言葉を使ったように「害虫」という解釈は、時代性や社会によっても変化するものだ、ということもお話ししたかと思います。

前回はゴキブリはかつて害虫とはされていなかった、という例を出しました。
また疫病を介する虫だって、それが解明されていない時代には「害虫」とはされていませんでした。
それ以前は、害虫という概念はなく、呪いや天災だと皆が思っていたのです。

実はこの「衛生害虫」という概念が作られるのは、西洋史、1870年代以降のことです。
それはつまり、科学の急激な発展が見られ始めた時代からの、人間の歴史から見ればそんな古くはない話だということです。

例えば、かつてマラリアやフィラリアといった蚊という虫を介する疫病は、熱帯地方のみにみられる「熱帯病」と呼ばれていました。
「熱帯病」と誰が呼んでいたのかといえば、それは海外に進出し世界各地を自らの植民地とする政策を進めていたイギリスにおいて、です。
ヨーロッパから見て、はるか「熱帯地方」だから「熱帯病」なんです。
そしてこの時代、イギリスにおいてはこれら「熱帯病」の解明、克服はそこを支配し、住むために必須とも言えるものでした。
そこで「熱帯医学」の研究が強く押し進められ、その中で「昆虫媒介性疫病」の存在が発見されることになります。
これこそが、「衛生害虫」のはじまりに他ならない。
つまり面白いことに、「衛生害虫」という概念は、当時の先進国であったイギリス、ヨーロッパが、その植民地政策をすすめることにによってこそ広まっていった、ということです。

さてその後、1900年代になると、チフスやコレラとイエバエの研究が進み、欧米はおろか日本においても「衛生害虫」なる概念も、少しずつ拡大されていきます。
これにより「衛生害虫」というものは蚊やハエに対し、1800年代後期、日本においては大正期にかけて、時間をかけて根付いていくようになります。

ではそれまで「害虫」という認識はなかったのか。
違います。
なかったのは「衛生害虫」という区分自体です。
その以前から、虫が人間の生活を脅かすことは決して珍しいものではなかった。
というか、人間の文明の歴史は「害虫」との歴史といってもいいくらいでしょう。
そう、
そもそも農業の歴史とは、「害虫」との戦いの歴史でした。

結論から言えば、「害虫」とはかつて、というかこのたかがか100年ばかりの近代文明が栄える前までは、およそそのほとんどが農業分野において大きく悩まされ、研究されてきたものでした。
だから、今回ここでお話するメイン、「経済害虫」というのは、ある意味からすれば決して新しい捉え方ではないのです。
勿論、そんな言葉も呼び方も全く存在しなかったし、そんな考え方すらされていなかったでしょう。
だけど虫というのはずうーっと遥か昔から、それこそ「農耕」という人が生きていくうえで欠かせない産業における「経済害虫」的な存在として捉えられていた、ということになります。

害虫というのは農業において扱われてきた

そう鑑みれば、「衛生害虫」という解説を先にしてしまったことは、結果的に言うとむしろ「人と虫の関わりの歴史」を今の我々の目から先走ってしまったことになるかもしれません。
だって、「衛生害虫」というのはむしろ、本来的だった農業における害虫に対してはかなり新しい概念だったからです。

疫病には、虫が関係している。
これが近代の科学主義のなかで医学的、科学的に発見、判明、立証されたからこそ、「衛生害虫」という概念を生み出した。
つまり、長きにわたる「人と虫の関わりの歴史」においては、これは近代化の中で見つけられた比較的新しい発見だといえるでしょう。

しかし農業においては、もっとずうっと昔から、虫という疎ましい存在が確認されていた。
それこそ人間が、文明をおこし、定住を覚え、農耕を始めてから、ずっとそこに虫との戦いが存在していた。
何故なら「農作」というものは、本来そこにない「自然」に対し、人工的に人間の文明をぶちこむことだからです。
すなわち、本来虫がいた自然を壊して、人間の都合の「産業」を持ち込むのが、もともと「農耕」だったわけです。

勿論、それが当たり前でしかないぼくら現代人からすればそんなことはカケラぽっちすら全く思いません。
しかし本来的に文明というものは、産業というものは、例えば商業化にせよ工業化にせよ、そして農業化にしたって、そこにあった自然を壊してそこに人間の勝手をぶちこむ行為だとも、ある目線においては考えられることでしょう。

そしてそこにバッティングしてきたのが、虫という、自然環境を大きく反映する多用な生物でした。
つまりは、人間の文明、産業と、生きるすべと、虫は自ずとバッティングする。
これが「害虫」、つまりは人間という目線から見てそこでバッティングする相手に対する原初的な概念だったわけです。

先にも触れましたが「経済害虫」なんて言葉は、はっきり言ってここ最近、狭義に使われてるだけでしかないただの便宜上の造語でしかありません。
ですが、それは事実そうだとしても、「害虫」の歴史というのはそもそも「経済害虫」の歴史そのものだったと言ってもいいでしょう。
何故なら、人間の文明史とはとどのつまりが農業の発展であり、農業こそが経済活動を支えてきたからです。
畢竟、害虫の歴史とは、農業の歴史そのものです。

このことからもわかるように、実は多くの虫、とくに「害虫」に対する研究というのは、農業の世界で扱われてきたものでした。
よって多くの虫の生態や、駆除方法の研究なども、農業技術とともに進められてきたものなのです。
ですから先のように、近代化の中で「衛生害虫」という概念が作られるまで、「害虫」といったら一般的に農作物に被害を与える虫のことだったのです。

ちなみに日本では、「害虫」という言葉が使われるのは明治に入って以降のこと。
それまでは「蝗」と呼ばれていました。
この呼び方は、「イナゴ」ではありません。
「イナムシ」と呼びます。
特にニカメイガなど稲を枯らしてしまう虫について、その「蝗」を用いていたようです。

本格的な「害虫」の誕生とは

そもそもですが、「害虫」というのは、ある虫の活動を害だとする考えから始まります。

いやいや、おま、そんなん当たり前だろ!
と、今の僕たちからすればただ普通に思うかも知れませんが、しかし実は近代以前、虫による農耕への害は災害であって、「何か悪い虫がいる」と考えられているわけではありませんでした。
日本で言えば、それは「たたり」だとされていたんです。

では、ある虫の活動を「害だ」とする考えはどこから始まったのか。
歴史を辿ると、農学の中に害虫に対する本格的な研究分野、つまり「応用昆虫学」が生まれたのは1870年代、アメリカでのことだったと言われています。

1874年、アメリカ中西部にてロッキートビバッタの大発生が起こり、甚大な被害を受けた。
ある日、とんでもない量のバッタが飛来し、ありとあらゆる農作物を食い尽くしていった。
この事態を重んじたアメリカ政府は、これをなんとか防ごうと考えた。
これがその「応用昆虫学」の始まりだったとされています。
つまり、当時のアメリカ政府は、これが天災でもたたりでも神の呪いでもなく、ロッキートビバッタという虫の、生物の活動によるものだ、しかもこれは産業上の大きな支障となる。だからこれを虫に対する生物学的な対応として解決すべきだ、と考えた。
そして、ここから生物学的な昆虫制御科学が学問として本格的に考えられはじめた、と言われています。
今の我々からすれば、ここが「経済害虫」の始まり、といえるでしょう。

また日本においても、同様です。

1880年(明治13)年8月、北海道十勝地方の空を黒い雲が覆った。
しかしすぐにそれがトノサマバッタの大群であったことに気づきます。
夥しいトノサマバッタの群れは、まだ北海道の開拓間もないばかりの農場を荒らし尽くし、そして食い尽くし、あっという間に去っていった。
そう、記録されています。

これは明治を迎え、近代化した日本においての最初にして最大規模の害虫による被害でした。
勿論、江戸時代など前近代するまで、こうした虫による大規模な被害もあったのですが、それまでは天災、災害、たたりだとされていたのです。
つまり先に触れた「蝗(イナムシ)」とは「害虫」ではなく、たたりだ、と言われていたのです。
しかし近代化と科学がそれらを「害虫」としていきます。
このように見れば、「害虫」という概念は克服すべき自然問題を科学的に立ち向かう「近代化」という科学化時代の産物だったともいえるでしょう。

害虫から「経済害虫」へ

さあ!
長い、あまりに長い前置きですが。
ここまで長く話して、ようや今回のメインのお話を進めていくお膳立てが整いました。
結構、壮大な話になりましたが、でも書いているぼく自身は、なかなか楽しんでます(笑)。

そして多分、今回のこれ、「経済害虫」というものを語る上では、一番大掛かりなものとなっていることでしょう。
だって、こういう語り口を、ぼくは全く知りません。
前回から更新が数日滞ったのも、理由が見えるでしょ?
だってぼく、これ書くにあたって自宅の書斎の本棚をバタバタひっくり返してますからね。

おっと、逸れる話を戻しますよ。
で、ここで、やあっと時計の針をも、現代に戻します。
ぐるぐるぐるー。

 

「経済害虫」。
実は、正式にこうした昆虫学上の単語は存在しません。人間側の都合から見た何かを区分し指し示すため、だれかが造った便宜上の造語に過ぎません。
ですが、造語を造るには目的があるはず。
ではそれは何を意味するのか。
そこを考えると、面白いものが見えてくるでしょう。

先の通り、もともと、害虫とは農業分野において大きく関わる存在でした。
それは農業が産業の大きな核を成していたからです。
つまり、そもそも「害虫」とはその始まり自体が「経済害虫」を意味していた。
わざわざ「経済害虫」だなんて言う前に、そう言う意味もないまでに「害虫」とはそれそのものだった。

それそのものでしかなかったものが、じゃあなんでわざわざ「経済害虫」だと言わないといけないかといえば、そうじゃない「害虫」の意味が出てきた、ということです。
つまり本来的な「害虫」は現代においては結果的に、今、あえて「経済害虫」と括られることになった。

一つの始まりは、「衛生害虫」だった。
公衆衛生上の害虫だ、ということが科学的にわかった。
だから「衛生害虫」と区分された。
つまり「衛生害虫」とは、今までの害虫とは意味、区分が違うよ、ということが含まれていたわけです。

そしてさらに近代化が進み、成熟し、現在にいたるなか、産業構造もめまぐるしく変化し、そして「害虫」の意味も大きく変わっていった。
前回お話したように、疫病を運ぶ衛生害虫(媒介害虫)や人間に健康的な危害を加える「有害害虫」のみならず、ただ見かけが不快だという「不快害虫」などはその最たるものでしょう。
害はなさない、でも精神的に害をなすから「害虫」だ。
こうした区分が出てくれば、本来的な「害虫」もまた違う意味を帯びてきます。
そう、
かくして、もともとそうくくられていた「害虫」は、「経済害虫」にくくられていきました。

「経済害虫」とは

さて、ようやくなんですが。
では、ここで「経済害虫」とは何かを改めて確認してみましょう。

なお、この「経済害虫」もまたまさに生物学とは全く関係なく、前回同様に、そんな人間の都合から虫を「害するもの」「無害なもの」に区分けする手法です。
そしてこちらにおいては、これまで話してきたような人間の文明の発展、とくに産業の進化がめっちゃくちゃ大きくかかわっています。
まさに人間の経済活動から見る、それを害する虫とは、という見方です。

で、一つ、
ごめんなさい!

図表で示していますが、ちょっと分かりづらいので、解説はこっち(↓)でいくとしましょう。(笑)

なあに、区分なんてそんな重要ではありません。
だってあちこちで書いてあること自体が違うし、そもそも教科書的に決まっているわけではないのです、
一番重要なのは、どういう考え方で区分しているのか、その考え方、バックボーン、ロジックの強度がしっかりしているか、ということです。
そしてここでは、それを重視するからこそ、これでいかせていただきますね。

経済害虫とは
  • 農業害虫
  • 食品害虫
  • 財産害虫

 

そう、
「経済害虫」は大きく分ければ、「農業害虫」、「食品害虫」、「財産害虫」の3つがあります。
それ以外は、なにがしかこれらの中に含まれます。

そもそも「経済害虫」とは、その名から連想されるように、人間社会において経済活動上のダメージを与える虫のことを指す造語です。
つまり、原初的には「農業害虫」という元来的な害虫の概念から、そして現代社会においてはそれにとどまらず別の産業においても害を与えるという「害虫」の解釈がなされるようになった。
そのために、この造語が造られたわけです。

それを考えた場合、これら三つにはどういう意味があるのか。
さあ、高校社会科の授業です。

社会科で習ったように、経済学的に、産業には、第一次産業、第二次産業、第三次産業というのがあります。
第一次産業とは、農業、そして林業、水産業。
第二次産業とは、工業です。
そして第三次産業とは、商業、サービス業、です。

上の三区分をよく見てみてください。
これらは皆それぞれ、それらに関わっています。

従来的な古くからある人間の歴史的な「害虫」の概念。
それが「農業害虫」。
言ってしまえば、第一次産業における、経済活動を害する存在です。

食品害虫。
これはぼくの専門です。
いっくらでも、それこそ一日かけたって専門的なことは話せる存在です。
ですが、ここではあえてもう少し広く見るとしましょう。
するとこの「食品害虫」というのは、工業、すなわち第二次産業における、経済活動を害する存在といえるでしょう。

かたや「財産害虫」というのはちょっと面白く、そして幅広い存在です。
例えば、木造住宅を食い荒らすシロアリ。
さらには文化財などを害する虫も存在します。これらもそこに加わる虫でしょう。
そのほか、家畜を害する害虫、衣類を害する害虫、なんてのもここに含まれます。
ですからこれらを簡単に、第三次産業を害する、とは言えません。
ですが、少なくともこれらは、第三次産業がメインとなった現代社会においてようやく問題とあげられるようになった、比較的新しい害虫だというのは間違いありません。

つまり、経済活動、産業発展の段階において、どんな虫が人間の「財」という社会活動から害となるのか。
これを見たのが、「経済害虫」だということです。

まとめ

うーん、
随分と社会科ちっくな話になったなあ。
少なくとも、生物学、理系の話ではないよなあ。
読んでいるかたは、そう思うかもしれません。

でも、よくよく考えてみれば、そうなるのは至極当たり前の話なのです。
だって、そういう分類だからです。
「衛生害虫」、「経済害虫」。
これら二つはどう分類されているのか。
一言でいうなら、「人間という立場から見た虫の害が、人間の生物学的にあるのか、それとも経済という社会的にあるのか」です。
もっとズバッというのであれば、「人から見た虫の害が、身体上(健康)にあるのか、それとも生活上(金)にあるのか」です。

そもそも「害虫」だということは、人間に「害」がある、という認識に立つ、という意味です。
しかし「害だ」といっても、 多岐にわたります。
特に複雑多様な現代社会では、さらに一層です。
ではそれをどう区分するか、が前回、そして今回の話です。

前回の「衛生害虫」にせよ、「有害害虫」にせよ、そして「ただ不快だ」という心理的な区分である「不快害虫」ですらしても、それはあくまで「人間」という生身の生物の生物学的な観点に立脚して「害だ」という原点に変わりはありません。

ですが、この「経済害虫」というのは、人間の生物学的な観点から見たものではありません。
むしろ経済活動という、人間がおりなす社会的観点から見たうえで、害があるかどうかを評価するものです。その意味では、これらもまた古くも新しい「害虫」の概念といえるでしょう。

本来は古来的だった「農業の害虫」、つまり「経済害虫」も、今やそれを示すのみならず、このように高度に分類され、多様化されているのだ、というのがよくわかるかと思います。

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