夏場になると毎年必ず問題になるのが、工場内、厨房内でのカビの発生です。
なかでも盲点となっていることって、実は結構あるものです。
今日はそんな「知らない間にカビを広げてしまい、問題を悪化させてしまっていること」についてお話いたします。
改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

目 次
梅雨から始まるカビ対策
目下、九州では熊本を筆頭に、豪雨による甚大な被害が広がっています。(7月8日現在)
かたやこちら東京、関東近県でも、それほどまでとはいかずとも毎日毎日イヤというくらいの梅雨模様です。
さて。
このようなジメジメと蒸し暑い梅雨時期になるとやはり問題になりやすいのが、「カビ」というものです。
このことは食品工場や飲食店厨房においても同様でしょう。
というか、どうしたって水を多用し、温度差の大きな環境が生じざるを得ない工場・厨房において、カビの対策は必須というものです。
工場や厨房において、カビ対策というのは、深刻にして永遠のテーマです。
実際、カビで困っていない工場や厨房は、なかなかありません。
そのくらい、食品の製造・調理の現場においては、カビの対策が重要になります。
タイムリーな、先週入ったこんな事例を挙げてみましょう。
この間、ぼくのところに以前お世話になったお客さんから連絡が入りました。
話を聞いてみると、このところの新型コロナウイルスのせいで、工場の稼働が2ヶ月ほど止まってしまったという。
そこで、緊急事態宣言解除後に稼働したら、これまで数十年、問題にもならなかったカビが工場内壁面や天井のあちらこちらに出てしまっている。
こんなことは初めてだ。
一体どういうことか、ということです。
どういうことでしょう。
まず基本から考えていきましょう。
カビが増殖するために、必要な「条件」というのがあります。
えらくシンプルに考えるなら、カビが繁殖したのはこれらの条件を満たしたからです。
それが次の3つです。
- 温度
- 湿度
- 栄養

これらをどう抑えるか。
まず、これがカビ対策の基本です。
尤も、なんですがね。
実を言うとこんなのは、ちょっとでもググればいくらでも出てきます。
ですがググってすぐ出てくるところは、数秒前まで微生物に向き合ったことすらないド素人が検索だけで書いた、ただの「コピペ記事」です。
ここまでは、誰だって言えるんです。
重要なのは、寧ろここから先。
つまり、「それはどういうことなのか」ということを伝えられるかどうかです。
そここそが、ド素人コピペ記事ライターと衛生管理のプロの決定的な違いです。
そして、それに一番効果的なのは「実際にあった事例の紹介」です。
事実、この「ただの事実」という「抽象」を現場に活かせる生きた知識にするためには、こうした「具体的な事例」に取り組む意外に、ありません。
これこそが、こないだも取り上げたYoutuber経営者「まこなり社長」の言う、「抽象から具体」「具体から抽象」ってやつです。
あるいは、おしゃれファッションブロガー、MBさんが言う「抽象から具体への実践」というやつです。
おっと、話を戻します。
つまり、この「本質」を「事例という具体例」に落としこんで話を進めます。
実質2ヶ月、工場が稼働していなかった。
温度管理も湿度管理もされていなかった。
誰もいないので、清掃もされていなかった。
工場内で使用する小麦粉が舞い上がり、壁面に付着し、それらが放置されていた。
つまり「温度」と「湿度」と「栄養」が揃っていた。
そこで、人知れずカビの胞子がすくすくと、その環境下で育っていた。
こんなことは工場始まって以来、一度もないことだった。
実は、問題が顕在化するのは、眠っているときではなくて、工場が動いてから、ということはよくある話です。
さあ、晴れて、2ヶ月後。
待ちに待った緊急事態宣言が解かれて、ようやく工場が稼働した。
そこで人が動き、空調が動き、空気が動いた。工場が動いた。環境が動いた。
するとどうなるか。
すくすく育っていたたカビの胞子が、工場の動きに合わせて広がり始まった。
つまり、じくじくと増えていたカビの胞子が、稼働に合わせて工場内に広がったわけです。
そこで、色々なところで問題が生じていった。
稼働すれば水は使います。空調は使います。人は動きます。栄養となる粉や残渣もどんどん出ます。
しかも、折しも、梅雨時期突入。
気温も上昇するし、ムシムシと湿度だってあがる。
こうして、増えていたカビの胞子に対し「温度」「湿度」「栄養」の条件が揃ってしまった。
結果、工場が止まっている間にたっぷり育っていたカビの胞子が増殖する条件が、いきなりどーん!と揃って顕在化したわけです。
このコロナ下、どこも生産が落ちていました。
なのでこういう工場、実は案外多いんじゃないかなと思います。

なぜカビは夏に増えるのか
では、どうしてカビは夏に問題になりやすいのでしょうか。
で、その前に。
例えば自宅のお風呂場とかに、カビが生えたりしますよね。
このカビというのは、まずカビの「胞子」が最初にあって、これが育つことで初めて発生するものです。
この「胞子」というのは、目に見えない「カビのもと」「カビの種子」みたいなものだと思ってください。
「カビのタネ」である「胞子」が、まるで植物の芽のように「発芽」し、そして「菌糸」という「カビの根っこ」をはやして育ち、そうして大きくなることでまたタネである「胞子」を作る。
こうやって、カビは次第に増えて、お風呂場の黒カビのように目に見えるものとなっていくのです。
さて。
このカビの「胞子」ですが、そもそもとしてこれは、空気中のどこにでもある存在です。
勿論、その環境によって「多い」「少ない」はありますし、それによって「増えやすい」「増えにくい」は当然あります。
しっかり清掃されていれば、胞子は少ないので、カビは生えづらくなります。
しかしそれを怠れば、例えば先の例のように二ヶ月工場を稼働せず清掃もせずにいたら、その間に「胞子」は育ち、増えますので、カビも生えやすくなってしまいます。
いずれにせよ、「カビの胞子」は空気中のどこにでもあるものです。
なので、これ自体をなくすというのはなかなか難しいものであり、一般的な工場・厨房クラスでは現実的な話ではありません。
実際、あなたが今呼吸している空気の中にも、おそらくカビの胞子は存在しています。
ただ小さくて(3~10μm)見えていないだけの話です。
そして。
これら極めて微小なカビの胞子は、空気の動きなどに飛ばされたり、人の動きなどで舞い上がります。
なにせカビの胞子は軽いので、ちょっとしたことで簡単に拡散してしまいます。
風などが吹けば、簡単にあちこちに広がります。
先の事例を思い出してください。
二ヶ月休んだ工場が、急激に動き出した。
そうして、たっぷり育てられたカビの胞子が、急激に広がった。
さらに、なにせカビの胞子は小さいので、肉眼では見えません。
そしてそのカビの胞子は、飛ばされて人知れず「どこか」に落下します。
で、この「どこか」である条件が揃ったとき。
先のようにカビの胞子は「発芽」し、「菌糸」を作り張り巡らせます。
こうしてカビが増殖し、また新たな「胞子」を作っていくのです。
条件は、もう既にお話していますね。
「温度」「湿度」「栄養」です。
これらが何らかのかたちで揃うと、カビは爆発的に増殖する、というわけです。

それ、カビ広げてますよ!?
今までのことを、まとめてみましょう。
- まずカビの胞子はどこにでもある
- カビの胞子は風などで飛ばされ、あちこちに拡散する
- 落下した箇所に発育条件である「湿度・温度・栄養」があるとカビは増殖する
とまあ、このような流れでカビは広がっていきます。
となると、です。
工場内や厨房で、気づかないうちにカビを拡散している。そんな場合も少なくありません。
ではどのような状況でしょうか。
次から説明していきましょう。

エアコンでカビ、広げてますよ?
工場内や厨房内で最もカビを広げていることが多い代表格。
実は、それがエアコンです。
そもそも、エアコンとはどういう機械でしょうか。
それは、室内の空気を吸い込んで、それを熱交換機能によって冷却し、それによってできた冷風を室内に送り込む、という機械です。
ちょっと箇条書きに、「エアコン3つのポイント」として考えてみましょう。
「室内の空気を取り込む」
「それを冷却する」
「冷却した空気を吹き出す」
この3つの機能を果たせるのが、エアコンだというわけです。
そしてこれらはいずれもカビの増殖、拡散に大きく関わります。
まず、先のように、工場内・厨房内にはカビの胞子が空気中に存在しています。
それをエアコンは吸い込んでしまうのです。
ご存じのようにエアコンにはフィルターがあり、ある程度のホコリなどはここで止めるよう工夫されています。
ですが、カビの胞子は非常に微小であるため、そのフィルターの目よりも小さく、簡単にスルーしてしまいます。
かくして、エアコン内にカビの胞子は入り込みます。
これがまず一点目。
一方、空気を冷やして吹き出すエアコンは、その性質上、高い温度の空気と低い温度の空気が接触しやすい作りとなっています。
さて、熱い空気と冷たい空気がぶつかるとどうなるか。
結露が生じるのです。
結露、つまり水です。
これがカビの発生条件を促します。

そう、エアコンの内部は自ずと結露が、そしてカビが生えやすいのです。
さらに言うなら、エアコンはカビの胞子もさることながら、なんやかんやで止められなかったホコリも一緒に吸い込みます。
そしてそれらがカビの栄養となり、さらに条件が揃ってしまう。
つまり、エアコン内部というのは吸い込んだカビの胞子に対し、「温度」「湿度」「栄養」の発生条件が揃ってしまう環境ができている、というわけです。
結果、エアコンの内部や吹き出し口、冷媒パイプ周辺などでカビが発生しやすくなるのです。
- クラドスポリウム(クロカビ)
- ペニシリウム(アオカビ)
- アスペルギルス(コウジカビ)
- アルテルナリア(ススカビ)
- トリコスポロン
さあ、
ことさように、エアコンというのは内部でカビが繁殖しやすい機械でもある。
んじゃ、カビの生えたエアコンを使用したらどうなるか。
当たり前ですが、送風でカビの胞子が広がります。
そして、工場や厨房の各所にくまなく胞子が広がります。
では、これらを先の「エアコンの機能」三点に絡めてみましょう。
つまり、こういうことです。
「室内の空気を取り込む」→エアコン内に、カビを取り込む
「それを冷却する」→エアコンの内部でカビを増殖させる
「冷却した空気を吹き出す」→エアコンの送風でカビの胞子をバラまく
これが、エアコンの抱えているリスクだ、ということは念頭に置いていたほうがいいでしょう。
実はエアコンには、それ以外にも問題があることが少なくありません。
例えば、工場内や厨房で使用するパッケージエアコンというのは、家庭用のものと違って天井に埋め込まれているタイプがよく見られます。
あるいは、天井からの吊り下げだけど、天井に距離が近く、かつ風向きがまっすぐという場合。
こういう際に、エアコンが吹き出す冷風が、やもすると天井パネルそのものにぶつかっていることも少なくありません。
例えばこんな画像↓のようなエアコンの送風が、風向きによっては天井パネルにぶつかっているというケースです。

「それがどうした?」と思いますよね。
では、それがどうなると思います?
天井パネルが冷やされると、空調の効いてない暑い天井裏の空気とぶつかります。
当然結露が生じます。
こうして天井裏でカビが生じていることも少なくありません。
「いやでも天井裏だったら、別によくね?」
そうなんです、それだけなら別によいかもしれません。(あまりよくはないですが)
でも天井裏でカビが繁殖すると、どうなると思います?
実は、
天井裏でカビを食べる虫が大発生するのです。
大発生、です。
いいですか?「大」発生です。
はっきり言って、そう簡単には止まりません。
これ、かなり厄介です。
これまで20年間以上、それで幾度となく泣かされてきたプロが言っているのだから、間違いないです。
で、こうなると最悪、どうなると思います?
なんとこれが、たまらないことに。
天井の隙間、パネルの合わせ目や点検口、蛍光灯の隙間から、パラパラ虫が室内に降ってきます。
ぼくは実際に、サンドイッチを作っていたら天井から作業台の上にパラパラと小さな虫が降ってききたという相談を受けたことがあります。
見てみたら、下の枠内のうちにある「ヒメマキムシ」でした。
サンドイッチの具材を作っている作業台に、ですよ?
即、異物クレーム案件です。お願いだからどうにかしてくれと泣きつかれました。
- チャタテムシ
- ヒメマキムシ
- トビムシ
- ダニ
- ハネカクシ

除湿機でカビ、広げてますよ?
カビで困っている工場や厨房は、一度試しに除湿機を使ってみるのも一案です。
実際に、除湿機一つで問題が収まる。
そんなところも珍しくはないです。
実際に、先のサンドイッチ工場さんでは、天井裏に滞留した空気を撹拌するためのサーキュレイターと、湿度を落とすために除湿機を設置したところ、長年の問題がパタンと収まりました。
別段高額な除湿機でもなかったので、効果が出たら儲けものだと思っていたのですが、結果的には劇的に効果が出たのです。
こういう話は、実は結構耳にします。
しかし。
ここで一つ、盲点があります。
というのも、除湿機もまた湿度を含んだ室内の空気を吸引するのですから、基本的にエアコンと同様の機械だということです。
そう、除湿機もまた、実はカビを広げている要因だったりすることも少なくありません。
しかも、除湿機が設置されている、というところは得てして湿度の問題を抱えています。
まあ当たり前ですよね。
ということはそれだけ、カビの胞子が多い空間であることが多いのです。
つまり、カビの多い空間で除湿機を使えば、それだけカビの胞子をガンガン吹き出すことになります。
これを内部清掃もしないまま放置していると、当然ながらカビの温床となりかねません。
事実、ぼくは工場でカビまみれになった真っ黒の除湿機がガンガンとカビの胞子を撒き散らしている様子を、幾度となく見た経験があります。

スポットクーラーでカビ、広げてますよ?
スポットクーラーも多くの場合、同様の問題を抱えています。
特にスポットクーラーの場合、吹き出し口の周辺やパイプの蛇腹部分にカビが発生することがよくあります。
その場合、送風で常時カビの胞子をばらまいているようなものとなります。
これもご注意ください。
ジェットタオルでカビ、広げてますよ?
新型コロナウイルスによって、全国のトイレや手洗い施設などでのジェットタオルの使用が控えられるようになってしまいました。
乾燥の送風の際に、ウイルスの拡散がされる、ということがその理由です。
ですが、工場や飲食店厨房の入場時に使っている場合、これはあくまでアルコールによる手指殺菌の前準備のための手段でしかありません。
ですから、例え仮にここで汚染されたとしても、アルコールによって除去されるため、問題にはならないだろう、というのがその考えです。
勿論、これはこれでまぎれなく正解です。
ですが、だからといってカビの胞子をばらまくようなことは、極力やらないほうが賢明でしょう。
そう、ジェットタオルの裏や下部って結構カビが広がっていることが多いのです。
これによってカビの胞子が拡散することは多分に考えられることです。
まずは一度、ジェットタオルの下を覗き込んでみるといいでしょう。
結構真っ黒になっていること、ありますよ。

まとめ
今回は、この梅雨時に問題になりやすいカビについて、エアコンを中心に、実際に起きた事例も交えながらお話いたしました。
このように、意外とカビの胞子をばらまくようなことをしていることは少なくありません。
改めて、カビの拡散と増殖の流れをまとめてみましょう。
- まずカビの胞子はどこにでもある
- カビの胞子は風などで飛ばされ、あちこちに拡散する
- 落下した箇所に発育条件である「湿度・温度・栄養」があるとカビは増殖する
こうした問題が実際に起こっていないか、ご自身の現場で確認してみるといいでしょう。
意外なところで、問題というのは起きているものです。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

・どうやって防虫管理・衛生管理をすればいいか判らない
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だったら貴方が防虫・衛生管理のプロになればいいのです!
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- 何故なら、防虫管理・衛生管理のプロとは、基礎知識に加えて「正しい管理の仕組み」を作れる能力を持つ者のことだからです。
この「管理の仕組み作り」を知るこそが、防虫管理・衛生管理のプロへの道なのです。 - そんな防虫管理・衛生管理のプロを育成し広めることで、日本の「食の安全安心」を、さらにより広く、より高くさせることが私たちの使命だと信じています
- どうですか?
そんな防虫管理・衛生管理のプロにあなたもなって、本当の「食の安全安心」を私達と一緒に広げていきませんか?
