皆さん、いきなりですが、クイズです。
「腐った牛乳を飲んだけど、食中毒にならなかった。その理由は?」
今日はそんなクイズを題材に、「腐敗」と「食中毒」の関係性やその違いなどについてお話します。
改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えいたします。
- クイズ:「腐った牛乳を飲んでも食中毒にならなかった。その理由は?」
- 食品内で増殖した微生物によって分解され、食品本来の風味や香りが損なわれ、食用に向かなくなることを「腐る」=「腐敗(腐敗変敗)」と言う
- 「食中毒」とは「有害、有毒な化学物質等毒素を含む飲食物を人が口から摂取した結果として起こる下痢や嘔吐や発熱などの疾病の総称」のことである
- 食中毒は、限られたある特定の微生物を食べることで起きる現象のことであり、例え食品が腐敗していたとしても、それを食べたからイコールただちに食中毒になるとは限らない
- 夏場の飲み残しのペットボトル飲料は、黄色ブドウ球菌による食中毒の危険がある
- 腐敗した食品を食べても、必ずしも食中毒になるとは限らない

目 次
腐った牛乳を飲んでも食中毒にならなかったのは何故?
はい、突然ですがいきなりのクイズです。
さあ、答えはどうだと思いますか?

出てきた答えは?
折角なのでFacebookで友人に聞いてみました。
ちなみに皆、一般の、食品衛生については素人な人ばかりです。

- 普通に胃腸が強いからと思ってしまった(笑)
- 腹の中でヨーグルトになった!?
- 発酵してた?w
- 同じく発酵くらいしか思いつかないす
- 腐ったもの=細菌ですよね。胃がちゃっちゃと殺して排泄したから。
- なんとなく食中毒ってウイルスのイメージでしたが、キノコの毒とかも食中毒!?
そもそもの定義が判らなくなってきた…。食中毒の定義を教えてください! - 既に病気だったから気付かなかったとか!?
- 運が良かった
- ゲンキだったから
- 難しい…。全く判らないですー。
うん、これもこれで正解、ってのもちょいちょいありますね。
あと「運が良かった」てのにも、30点、いや40点くらいあげてもいんじゃないかな。(笑)
では、リクエストに応じて、「食中毒の定義」含めて解答していきましょうか。

食べ物が「腐る」とはどういうことか
まず、「腐る」、つまり「腐敗変敗」とはどのような現象でしょうか。
「腐敗」というのは、食品が微生物によってそのタンパク質やアミノ酸が分解され、硫化水素やアンモニアなどの悪臭物質や有害物質などを生成する現象のことです。
一方、「変敗」とは、炭水化物や脂質が微生物によって分解される現象のことを言います。
この「腐敗」と「変敗」はほぼ同時に行われることが多いため、「腐敗変敗」と一緒にして呼んだりします。
いずれにせよ、食品内で増殖した微生物によって分解され、食品本来の風味や香りが損なわれ、食用に向かなくなることを「腐る」=「腐敗変敗」と言います。
この状況になるには、普通、食品1g当たり107~108程度の菌数が必要となってきます。
そしてこの腐敗変敗に関わる微生物のことを「腐敗微生物」と呼びます。
主な「腐敗微生物」として次のようなものがありますが、しかし基本的に特定の微生物ではありません。
生活空間にある様々な多くの菌が、腐敗に作用します。

「食中毒」とは
では、一方で「食中毒」とはどんな現象のことを言うのでしょうか。
食中毒とは「有害、有毒な化学物質等毒素を含む飲食物を人が口から摂取した結果として起こる下痢や嘔吐や発熱などの疾病の総称」であると定義されています。
食中毒の症状は、腹痛、下痢、嘔吐といった胃腸障害や発熱をともなうものがその多くです。
ただしその症状の強弱や、発症までの潜伏時間などは、各々の原因物質や各自の健康状況などによって違ってきます。
さて、上のクイズの解答にもありましたが、その要因は、細菌性、ウィルス性をはじめとして、キノコ毒やフグ毒などの自然毒によるもの、さらにはヒスタミンなどの化学性のもの、アニサキスなどの寄生虫によるものなど、実は様々あるのです。
でも今回はその中でも群を抜いて最も多い「細菌性食中毒」のことについてのみ、話題の対象とするとしましょう。

食中毒を起こす菌は決まっている
上の表のように、食中毒(細菌性食中毒)とは、ある特定の病原微生物が食品内にいることで起こされるものです。
そして無数に存在する微生物の世界において、この食中毒を起こす菌というのはごく一部、少数です。
つまり食中毒とは、限られたある特定の微生物を食べることで起きる現象のことなのです。
これは逆に言うなら、食品にその食中毒菌がいなければ、食中毒は起こらないということでもあります。
ということは、例え食品が腐敗していたとしても、それを食べたからイコールただちに食中毒になるとは限らない、ということでもあります。
実際に、「腐敗変敗」を進める主な微生物の種と、上の「食中毒菌」の種は全く違っていますよね?
腐敗はどんな微生物でも起こる現象ですが、食中毒は極めて特定の微生物から起こる現象です。
なんとなくのイメージで、腐敗したものを食べると食中毒になる、と思っている方は多いと思います。
ですが、基本的に「腐敗変敗」と「食中毒」の間に関係性は実はありません。
勿論、腐敗した食品の中に食中毒菌が含まれていれば、食中毒になるでしょう。
一般的には、腐敗した食品を食べても、そりゃ当然ながら美味しくはないでしょうが、しかしだからといって嘔吐や下痢などといった食中毒の症状は起こりません。
寧ろ怖いのは、食中毒菌に汚染された食品は一見して腐ったようには見えないことが多く、臭いや外見などでその存在に気付かず食べてしまうことが多いということです。
多くの食中毒はこのように、腐敗変敗とは全く関係なく発生しているのが実状です。
例えば、O157やカンピロバクター、サルモネラなどは、食品内に菌数が少なくても食中毒を引き起こしますから、腐るまで全く至らずともそれを食べれば発症します。
またカンピロバクターは空気中を嫌うため、逆に新鮮な時のほうが食中毒になりやすい。
これらは食中毒が腐敗とは関係なく、適切な保存や調理によってしか防止出来ないものであることの好例といえるでしょう。

食中毒に個人差はあるのか
結論から言えば、当然、個人差は生じます。
同じものを食べても、症状がない人もいれば、重症になる人もいます。
取り込んだ状況や量、そしてその健康状態も大きな理由になります。
健康な若い大人と、体の弱い幼児や老人、病人などでは耐性が違うのもお判りかと思います。
例えば、健康な人では胃酸によって食中毒を殺菌してしまうこともあるでしょう。
また腸内の乳酸菌などで食中毒菌の繁殖が抑えられてしまうこともあります。
そういう意味では、「健康だったら食中毒にならなかったのだ」という解答も正解といえるものでしょう。

「発酵」とは
ところで、腐敗変敗と発酵とはどう違うのでしょうか。
「発酵」とは、微生物が有機化合物を分解して、アルコールや乳酸などを生成する現象のことです。
実は、腐敗変敗も発酵も、微生物が食品を分解して何かを生成することに変わりはありません。
人にとって有益であれば発酵、良くなければ腐敗変敗、とその違いだけしかないのです。
例えば、大豆を蒸して納豆菌が付着すれば「発酵」して納豆が出来ます。
しかしその過程で発酵を失敗し、他の菌が増殖してしまえば、腐敗になります。
腐敗と発酵の微生物から見た違いを「敢えて」言うなら、上のように、その働きをする細菌種が違う、ということになるのかもしれません。
しかし例えば、「乳酸菌」は一般的には、発酵で作用する有益菌として扱われることが多いです。
でも一方ではネトや腐敗臭、変色などを起こす腐敗性細菌でもあります。
具体的には、牛乳に乳酸菌が付着すれば、牛乳内のブドウ糖がそれによって分解され、乳酸菌が増殖し、乳酸が生成され、やがてヨーグルトという発酵食品になります。
これが違う菌であれば、同様の活動の中で腐敗臭や変色を引き起こし、腐敗と呼ばれる現象となります。
このことからも、発酵と腐敗は背中合わせというか、微生物自体の作用としては同じことであることが判ります。
要するに、微生物による食品の分解作用において、アンモニアや腐敗臭などを生成すれば「腐敗」、アルコールや有機酸を生成すれば「発酵」と、人間の都合で区分けされているわけであり、科学的な区分はそこにおいて意味を成していない、ということです。

ところで、ここで一つ、食品衛生笑い(ない)話を。
こないだぼくがある漬物屋さんに相談で呼ばれたときのこと。
ある大手PCO業者、まあぼくの古巣なんですけど(笑)、そこが菌検査を委託されていました。
そこから出されている報告書を見せてもらったんですが、製品検査の幾つかの微生物検査項目の中に、乳酸菌がありましてね。
で。
その製品検査の乳酸菌が陽性で、評価が×になってました。
噴きました。
あのなあ、漬物で乳酸菌が陰性な訳がねーだろ!
どんな教育されてきてんだよ!
OBとして恥ずかしいわ!
どういうことかといえば、要は製品の腐敗変敗評価として、バチルスなどと一緒に乳酸菌もその指標菌だと杓子定規に考えていたわけです。
発酵食品なのに。
アホか!(笑)

夏の飲みかけペットボトルは黄色ブドウ球菌に注意
今回は「牛乳」を題材とさせていただきました。
牛乳は一般的な大手メーカーでは120度以上で約2秒(UHT)、場合によっては65度で30分以上(LTLT)、加熱すれば食中毒菌は死滅します。(工程上のミスがなければね)
生鮮食品ですから原則的に日持ちはしませんが(LL牛乳を除く)、しかししっかりと注ぎ口からコップに注いで飲んでいれば、それほど食中毒菌に汚染される機会は多くないでしょう。
ですが、たまーに注ぎ口を口に咥えて飲むような人も、いるかもしれません。
この場合、どんな危険があると思いますか?
人間の口内には、様々な菌が繁殖しています。
その中には、食中毒菌も含まれています。
例えば「黄色ブドウ球菌」。
口内や鼻などの粘膜、場合によっては人の皮膚に常在している菌ですが、この菌が食品内に入って増殖すると、「エンテロトキシン」という毒素を産生します。
エンテロトキシンが一端作られると、この毒素は耐熱性なので普通の加熱では失活出来ません。
ですから、これを含んだ食品を食べれば、食中毒になります。

夏に飲みかけのペットボトル飲料を放置して食中毒になった、という話も恐らくはこうしたことが要因です。
ネット上では、飲みかけのペットボトル飲料はこのくらい菌数が増える、やれ何倍もの菌数が!と煽りまくるところばかりが目立ちます。
ですが、重要なのは菌数ではありません。食中毒菌の有無であり、それに対しての知識です。
多くの情報は、その大事な視点が全く抜け落ちています。

まとめ
今回は、「腐った牛乳を飲んだけど、食中毒にならなかった。その理由は?」というクイズを題材に、「腐敗」と「食中道」の違いについて、さらには腐敗とほぼ同じ現象である「発酵」についてお話しました。
まあ、答えとしては概ねこの二つが言えるでしょう。
- 食中毒を引き起こす病原微生物が含まれていなかった
- 健康体であり胃酸で殺菌出来た
「発酵してた」
うーん、苦しい。
日常生活の中で牛乳の発酵をうながす乳酸菌も勿論珍しくはありませんが、意図的に付着させない限り、現実的ではないですね。
さて、最後に一つだけご注意を。
今回はこのように題材設定させていただいてますが、ぼくは別に「腐ったものは何でも安全だからどんどん食べろ」と言っている訳では断じてありません。
ホント、一回も言ってないですからね!?
あくまで、「腐敗したものを食べたからといって、必ずしも食中毒になるとは限らない」というだけです。
一般的に、腐敗した食品内には食中毒菌も含まれているリスクは高いですから、当たり前ですがやめたほうがいいに決まってます。
そこだけは誤解なく、気をつけてください。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

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