最新の食品業界ニュースからピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回の話題は、先日雪印が行ったピザ生地の自主回収について追ってみることにしましょう。

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

 

本日の時事食品ニュース

 

 

今日のお話の概要
  • 雪印メグミルクで、ピザ生地にカビが生えたため大規模に自主回収を行うというニュースがあった
  • 問題は、ヒートシール工程の不良かと思われる
  • 未開封製品のカビの発生は、包装に穴が生じて酸素が流入することによって生じる問題である
  • 食品のカビ対策の包装方法として、脱酸素剤を封入することが多用されている
  • このピザ生地は、ピロー包装でヒートシールされている商品である
  • シール温度や加圧の調整不足でヒートシール不良が生じるケースがある
  • 実際にこのピザ生地を購入し、食べてみた

 

雪印がピザ生地を自主回収

先日2020年2月5日、「雪印メグミルク」が自身の商品であるピザ生地を自主回収すると報じられていました。

以下ニュースを引用します。

 

雪印メグミルクは5日、全国で販売したピザ生地「ピザクラスト」(230グラム、2枚入り)7万5864パックを自主回収すると発表した。
製造過程で包装の裏側の中央部分に穴があいている商品があるという。
客から「カビが生えている」などと指摘があった。
対象は賞味期限が2020年1月17日から3月6日までのもの。
健康被害の報告はないという。

 

問題はヒートシールの包装不良

「未開封の食品にカビが生えている」という問題は、実はこないだうちのブログでも扱ったばかりです。

 

ほんとね、こういう風に意外とポコポコ出るんですよ、カビの問題って。
で、今回も全く同じ。

この原因は、包装に隙間や穴(ピンホール)が生じてしまったため、商品包装内に空気が入りこんで密閉出来ず、中に入っている脱酸素剤の機能が果たせなくなってカビが生じた、という、この業界では割とよくある話です。
で、その「よくある話」で、7万6000袋が今回は回収されるという、割と大がかりな話となっています。

なぜカビが生えてしまったのか

では、どうして今回この小さな穴によってカビが生えてしまったのでしょうか。

前のブログでもお話しましたが、カビは、いわゆる「偏性好気性菌」に属します。
要するに、カビが生きて活動し、増殖していく上で、「酸素」が必要不可欠なのです。

では、酸素がないとどうなるか。
確かに酸素がなくても、カビ胞子は死滅することはなく、生きています。
ですが活動ができず、休止しているような状況になります。
そして再び酸素が加わると、すぐに発芽し、増殖し始めます。
一般的に、酸素濃度を0.1%以下にするとカビは活動が出来なくなります。

つまり、カビ胞子の増殖を防ぐためには、酸素のない状況に閉じ込めてしまうことが有効になります。
そして一般的な食品包装技術は、これらを利用し、開発されてきているのです。

言うなれば、食品包装でのカビ対策は「如何に酸素を通さないか」、これに尽きます。

勿論、食品包装のためには包装した後に加熱溶着(ヒートシール)しなければいけません。
ですから、この工程においても如何に酸素を通さず密閉させるかが重要になります。

それからもう一点。

一端、酸素を通さず包装したとしても、途中で何処かに隙間が生じて酸素が入ってしまっては意味がありません。

ほんのわずかの隙間から入った酸素でも、カビが繁殖を始めるには十分となります。

しかも、食品は、箱詰め工程や物流、店頭など、様々な環境の中で衝撃に晒されることになります。
少しでも強度が低ければ、それらの間に劣化が生じて穴や隙間が生じ、途端に酸素が流れ込むことになります。

つまり、有る程度の衝撃に耐えうる強度があること。
これも食品包装資材においては重要なテーマとなります。
食品包装というのはこのように、食品衛生上、そうそう簡単に開いたり晒されたりしない一方で、しかし利便性上、いざ食べるときには簡単に開くことが求められる、という真逆の矛盾が求められる、なんとも困難なものだったりします。

脱酸素剤封入包装とは

さあ、そこで「脱酸素剤」が重要になるわけです。
脱酸素材は通称「エージレス」と呼ばれますが、これは三菱ガス化学さんの商品名です。

 

カビ対策の包装方法は幾つかあります。
ソーセージのような「真空包装」だったり、ポテトチップスのように窒素ガスを充填させる方法だったり。
でもこれらは皆、一端酸素を取り除く手順が工程上で必要になります。

なので、一番手っ取り早く、低コストで手軽に行える方法、それが脱酸素剤を包装内に入れる、というやり方です。

脱酸素剤はその名のまま、密閉された包装や容器の中を脱酸素状態にする薬剤のことです。
これは鉄の酸化、つまり鉄が錆びるときに鉄が酸素を結合する、という性質を利用し作られています。
(ただし現在では、糖やレダクトン、ビタミンなどの酸化反応を利用した有機系のものも一部で使用している、とのこと)

ですから包装資材内に多少の酸素がもしあっても大丈夫、
この「脱酸素剤」が吸収し、カビの活動を抑えてくれるのです。

しかしあくまでそれは、製品が完全密閉されていることが条件。
少しでもほんの小さなキズ穴や未開封箇所が生じていると、そこから空気がどんどん流入し、カビの活動が始まってしまいます。

メリットは、コストが一番安く、効果がそこそこ高く、手軽で、自動投入の仕組みを組み込めば一番スピーディに作業が出来る、製品の食感や形状の維持が出来る、など多々に及びます。
ですから多くの食品でこの方法が起用されがちです。

なぜ回収にまで至ったのか

今回の問題は、ニュースにもある通り「包装の裏側の中央部分に穴があいて」いたため、そこから空気が流れこみ、脱酸素剤が機の樹を果たしきれずにカビが酸素を得て活動を再開させ、カビが生えてしまったというものです。

「包装の裏側の中央に穴?」と思うかもしれませんが、これは「ピロー包装」という背貼りでの包装独特の不具合でしょう。

ピロー包装は、食品では一番メジャーな包装方法の一つで、側面の合わせ(サイドシール)がなく枕(Pillow)のような形態であることがその語源です。
フィルムを合わせて筒状にし(センターシール)、食品を充填包装したら上下を熱溶着(エンドシール)し、裁断して作ります。
センターシールの背貼りが手を合わせている状態に見立て、「合掌袋」とも時に言われます。

 

ぼくのうちにあった、冷凍食品。
これもピロー包装です。
裏側を見ると、上下、背の真ん中で3箇所熱溶着(ヒートシール)されているのがわかります。

赤い箇所ですね。

 

で、今回の問題は、このピロー包装のヒートシール工程で、何らかの理由により不具合が生じた可能性があります。

物流や他工程などで衝撃により包装にキズが生じた。
商品が物流段階で揺れて段ボール包材などと摩擦が起きたり、陳列の際にぶつけたり、など。
こういう場合に生じる穴をピンホールと言いますが、これだったら製品単品の問題であり、何も7万袋以上というロット単位での回収には至りません。
つまりこれは、製造工程上で生じた不具合のため、単品対応ではしきれず、製品不良が拡散している可能性を踏まえてのリコール(回収)である、ということです

大体、このクラスの回収になると、ヘタすれば数百万円の負債になります。
だって「回収」って、一回原料や資材を購入して仕入れ、ヒトを雇って機械を使って製造し、物流を依頼して商品を卸したものを、今度は自分のふところで買いあげ直すんですよ?
それも「自主回収」、つまり法律上に問題がないものを、企業の自分の判断で、です。

ちなみに、回収された製品は、即刻、全品廃棄です。
7万袋全部です。
カビが生える可能性があるものを、企業がまた市場に出すことは絶対にありませんし、安く売るなんてそんな責任の取れないことをやりたがる企業も絶対にありません。
(だったらそもそも最初から自主回収しません)
しばしば、ネットで「けしからん、回収しろ」と叫んでいる方々、あるいは「フードロスに反するから安く売れ」だのと言っている方々は、それが判っているんでしょうかね?

おっと、話が逸れかけました。
何が言いたいかというと、企業が本来やりたくもない自主回収(リコール)を踏むには、それなりの理由がある、ということです。

さて。
ここからの原因はメーカーでないとわかりません。
幾つか考えられることといえば、次のようなものでしょうか。

ヒートシール不良要因例
  • フィルム由来の不良(厚薄のばらつきなど)
  • コロナ処理不良
  • すべり性の不良
  • シーラント材(接着剤)不良
  • シール温度や加圧の調整不足
  • 製袋工程時の資材損傷

 

これらの中で何よりも一番考えられるのは、やはりシール温度や加圧の調整不足でしょう。
まあ恐らくの理由はこれだと思います。

ヒートシールは製品、フィルムごとに適切な温度設定が必要です。
シール温度や圧力は高すぎても収縮を生じさせたり、シールの内側エッジでエッジ切れを起こしやすくなったり、衝撃に弱くなったりします。
また一方で弱すぎるとヒートシール(熱溶着)されなかったりします。
これらは各製品やラインによって変わってきますし、フィルムの質にも左右されるため、その個別調整が必要になるのです。
(やもすれば、季節ごとの室温にも関わる、ともいわれています)
しかも一見シールされているように見えても、時間経過で次第に剥離する場合だって、ままあります。
これが食品包装の難しさなのです。


ピロー包装機:フジキカイ(株)

製品にカビの入るような工場は不衛生なのか

さて、一般の方々には、このような疑問が浮かぶかもしれません。
「製品にカビが生えていたということは、よっぽど工場が不衛生だからなんじゃないだろうか」
ってね。

まず、カビと縁のない食品工場はありません。存在しません。
水を使って、温度を管理して、加熱冷却工程があって、冷蔵庫があって、それでカビの問題が全くないなんて工場は、基本的に存在しません。
どんな大手企業の、一流企業の、マネジメントシステム(HACCP等)認証工場でも、それは同じです。
「不衛生な環境」と「カビの問題」は、基本的にはあまり関係ありません。

ましてやピザ生地といったら、穀粉を用いて、成形し、ホイロで発酵させ、冷却し、という工程が必要になります。
パン工場と近いですね。
で、この手のパン工場の環境条件は、どうしたってその工程上かなり厳しいのが通例です。
カビの問題に悩まされていないパン工場など、世にないと思っていいんじゃないでしょうか。

それから、カビの胞子を製造室内に入れない、ということは現実的ではありません。
塵埃管理を行って、二次更衣までさせて、HEPAフィルター設備のあるような無菌のクリーンルームでしたら話は違うかもしれませんが(そんなところでも空気と一緒にカビは侵入します)、医薬品や医療関係ではあるまいし、そんなところで通常の食品が製造されてなんかいません。

勿論、そりゃ防カビ塗装などを施したり、定期的なカビ除去清掃、空調清掃などを行っている工場のほうが、このような事故防止の確立は確かに高いかとも思います。
ですが一般的な食品工場において、製品へのカビの付着を100%防止することは、ちょっと非現実な話です。

またいくら委託工場とはいえ、雪印さんクラスの一流企業と取引し、その製品を製造するためには、それ相応の衛生レベルが委託主から要求されるのが常識です。
雪印さんがどのようなことを委託先に求めているかは具体的には判りませんが、しかしそれでも本社の一流の品管さんが血まなこで現場踏査し、帳票を細かくチェックし、評点してランク分けし、問題指摘と改善を委託先に要請し、足りなければ必要な設備も揃えて、そしてその結果が合格点に達するまで、まあ普通は取引開始はしないでしょう。
(当然、取引中には、そんな品管さんによる工場の定期査察だってあるでしょう)
ここに至るには、そんな簡単な話でもないかと思います。

実際にスーパーで商品を買ってみた

というわけで、この「雪印メグミルク もちもち食感ナポリ風ピザクラスト」。
実際にスーパーに行って、買ってきました。

 

寄ったのは、近所のヤオコーさん。
普通に置いてありました。
おお、さすがは大手、雪印メグミルク。
288円。

でもこれだけじゃ食事にならんので、溶けるチーズとピザソース、ベーコン、ルッコラその他をご購入。
ついでにお酒も買ったら、3000円超え。
うーん、痛い出費だな(笑)。

 

この商品は、賞味期限が2020年3月10日。
リコール対象のものではありません。

裏側を確認。
「裏側中央部」っていうのだから、ここの背貼りのヒートシールに失敗したんじゃないかな。

 

製造元は千葉の工場。
ジェーシー・コムサ(株)さん。
つまり販売元である雪印メグミルクからの委託製造なのでしょうが、ここで何らかの問題が生じたんでしょうな。
というと、ロット回収の経費はここ持ちかな。

 

開封すると、エージレスが入っていました。

 

ではピザソースを塗って、チーズたっぷりかけて、あとはベーコンたっぷり、プチトマトにうちにあったチキン、しめじなどなど…。
こいつをオーブンで焼きます。
メーカー推奨は、250度で7分。高温で短時間にぱりっと焼き上げるのがコツでしょうか。

ちなみにそのくらいの温度で加熱すれば、基本的にカビは死滅します。(カビ毒は残りますが)

 

できた!
それでは食品衛生について思いを馳せつつ、いただきますー。

うん、うまい。
このピザ生地、かなりパリパリ感があって、美味しいですねえ。
酒にもよくあうぞ。

まとめ

今回は、雪印メグミルクのピザ生地の自主回収について、その原因を探ってみました。
その結果、恐らくですが、ヒートシールの熱調整に不具合が生じた可能性がある、とここでは結論をつけさせていただきました。

さて。
ニュースをネットでチェックしていたら、こんな声を無責任にあげているところもありました。
リンクでアクセスが増えるのがバカらしいので、引用だけしておきましょう。

雪印のピザ生地に「カビ」。思い出される20年前の「私は寝てないんだ」集団食中毒事件

(略)健康被害は確認されておらず、購入者には商品回収後に商品代金相応のクオカードを送るとしているが、「何度似たような不祥事を起こせばいいのか」「問題を起こす企業は社名を変えても同じことをやるのだな」などとネットからは辛辣な声が上がっている。

1955年の「八雲工場食中毒」にはじまり、2000年の「集団食中毒事件」、2002年の「牛肉偽装事件」と不祥事を起こしてきた同社。
雪印乳業から雪印メグミルクに社名を変更し、商品のパッケージを変えて再起を図っても、企業の管理体質は変わらないものなのだろうか。(略)

 

「印乳業から雪印メグミルクに社名を変更し、商品のパッケージを変えて再起を図っても、企業の管理体質は変わらないものなのだろうか」ってこれ、随分と無知で無責任で失礼な言い方じゃないですかね。

この問題は先の通り、雪印メグミルクの直営工場が起こした問題でもないし、管理体制の問題などでは全くありません。
純粋に、委託先の工場での(まあ時として起こり得るであろう)工程上のトラブルですよ?
管理体制をしっかりしていれば起きない問題かといえば、そんなことはない。
「何度似たような不祥事を起こせばいいのか」ってそれ、どのことを言っているのですか?
黄色ブドウ球菌の食中毒事故と包装不良は、その理由から問題の次元まで全くもって別ものですよ?

ぶっちゃけ、包装不良なんてどの食品工場でも多かれ少なかれ発生します。(ていうか、してます)
包装不良になればカビだってそりゃ発生します。
これを完全に無くすのは、一般の人が思っている程そんな簡単なことではありません。

リコールなんてやりたい企業は一つもありませんし、やむなく自主的にやっているんです。
だってこれ、法令違反による行政リコールじゃないですよ?
食品衛生法は違反していないし、健康被害にもなりそうにないが(250度での加熱推奨ですよ?)、拡散性を重視して雪印が自主的に回収を行っているのです。
このような事情も基礎知識も知らず、さも物知り顔でメーカーを叩くことこそ、百害あって一利なしというものではないでしょうか。

 

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

 

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