最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回の話題は、長野にあるFSSC認証の豆腐工場で起こった「サルモネラ」による大規模食中毒についてお話します。
これ、専門性が高いせいで他では全く言われてないけれど、実食品安全においてめっちゃくちゃ示唆に富んだ話です。
ったく、なんでこんな美味しい話、他は拾わないんだろ(笑)。
いいですか?
「FSSC認証」の「高野豆腐工場」で、「サルモネラによる大規模食中毒」が起こったんですよ!?
- 11県101人が食中毒 総菜からサルモネラ菌検出(2019年10月3日)
改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。
- 長野の高野豆腐工場で製造した総菜によって、「サルモネラ」の食中毒が発生した
- ってここ、こないだジョギングするときに見た工場やん!
- 「白和え」で「サルモネラ」ってどういうこと?
- 「豆腐」の汚染は?具の「野菜」による汚染は?普通は、ありえない。
- しかし原材料に「卵」が使われていると表示されている
- この工場は、FSSC 22000の認証工場だった
- FSSC 22000は、HACCP以上に厳しい認証規格である
- この企業は全工場においてFSSC 22000を認証取得している。それだけ食品安全に真摯な企業でもある
- それでも食中毒は起きうるものであるという認識が重要
目 次
長野で総菜による「サルモネラ」食中毒が発生
長野で製造した総菜によって「サルモネラ」の大規模食中毒が発生、というニュースがあがっています。
長野県の食品製造「旭松食品」の高森工場(同県高森町)で製造した総菜からサルモネラ菌が検出された問題で、県は2日、この総菜を食べて下痢や嘔吐などの症状を訴えた患者が11県の101人に上ったと明らかにした。同工場の総菜が原因の食中毒と断定し、営業禁止とした。
県によると、総菜は同工場が7月25日に製造したニンジンやゴボウなどの入ったもので、医療機関や社会福祉施設など26都府県の約80施設に販売された。このうち17施設で、10歳未満~100歳以上の男女101人が下痢などの症状を訴えた。
患者の便や未開封の総菜などから、サルモネラ菌が検出された。
ではこれについて、プロの衛生管理屋として少しばかり考えてみたいと思います。

この工場、知ってる!?
問題の総菜を製造していたのは、長野にある「旭松食品」の高松工場であるということ。
飯田市のすぐそば、天竜川沿い…。
って、あれ?
うちの嫁さんの実家の、これ、割と近いんじゃね?
いや、これ…
ちょっと待てよ…?
先月、この工場の横走ったぞ!?
実はぼく、地方に行くとその地をジョギングするのが趣味なんです。
ゆっくりと走りながら、その地の風景を眺めながら廻る。
必ず何処か行くとそんなことをしています。
で、先月9月の初頭に嫁さんの実家である長野の飯田に、ちとばかり家庭のことで帰ったとき。
天竜川のほとりをずっと走っていたのですが。
そういや間違いなく通ったよ、この工場の横!

(工場の近くを流れる天竜川)
さすがに工場は撮影していませんでしたが、でもこの工場、しばらく眺めていた記憶がある。
そう、これはぼくの職業病なんですが、食品工場があるとですねえ、外観からどんな工場なのか、どんな管理をしているのか、などつい観察&妄想しちゃうんですね。
ここは何を作っているんだろう、と。
そういえば、走りながらしばらく考えていたよ。
そうか、あそこは高野豆腐を使った総菜工場だったのか。
まさか、こんな縁があるとは。
おっとぼくのことはどうでもいいですね、はいはい、お話を先に進めますよっと。
(旭松食品ホームページより。なんでも飯田市は高野豆腐の主産地なのだとか。知らなかったよ!)
白和えで「サルモネラ」?!
さて、今回の食中毒を見てみると、色々と興味深いものが見えてきます。
まず、真っ先に思うこと。
「白和え」で「サルモネラ」ってなんだよ、と。
これ、どういう意味だか皆さん判ります?
どうしてネットでこれ、そんなに言われないのか、専門性が高いからなのか、よく判りません。
え、
だって、もう一回言いますよ?
「白和え」で「サルモネラ」、ですよ?
多分これ、製造メーカーさんも、最初に聞いたとき「マジで?」って思ったんじゃないですかね。
だって、豆腐だよ?
だって、野菜だよ?
それで「サルモネラ」なの?
正直、メーカーの品管さんも驚いたんじゃないかなあ。
あのね、「サルモネラ」での食中毒って、大概は鶏由来なんです。
他にもあるけれど、ダントツで鶏。
ここで天下の財団法人、顕微鏡院さんのとこの資料を、ご拝借。
少し古めの資料ですが、いまでも実状はそう変わらんでしょう。
ね?鶏がずば抜けてるでしょ?
それから「サルモネラ」は割と多くの動物の腸内にいます。
鶏意外にも、豚や牛、ペットにもいます。
上の表を見てください、豚由来もこのように結構ある。
ではどんな食品が「サルモネラ」での食中毒になりやすいのか。
これまた顕微鏡院さんところの資料を。
一番は卵由来、次いで鶏肉。
だから卵料理や焼き鳥などの鶏料理での件数が多い。
どんぶり物が多いのは、生卵を使うから。親子丼なんかでも、しっかり加熱しないと食中毒になります。
そして実は、洋菓子も多い。結構、多い。
何故なら生クリームなどで生卵を使うからです。
よく
「日本では生卵を食べるのが信じられない。食中毒が怖くないのか」
と海外から言われることが多いですが、そんな欧米では普通に生卵で作った生クリームを洋菓子で食べています。
それ怖くないのかよ、と言い返したいところではありますが(笑)。
あとここにはありませんが、乾燥食品でのケースも時折見られます。
というのも「サルモネラ」は乾燥には強いので、低温度で調理してから乾燥によって水分活性で菌対策、なんて製品には時折食中毒が出ます。
イカの乾製品、イカ菓子や珍味みたいなもの。
これでも時々起こります。
付近の海が鶏や動物の糞便で汚染されていて発生、というケースです。
以前、1500人を越えるイカ菓子での「サルモネラ」の食中毒事件がありました。
このように、結構な大型食中毒が起こりやすいのも「サルモネラ」の特徴です。
ちなみにここ近々では、こんなのもありました。
これも乾燥食品。乾燥ササミで、「サルモネラ」食中毒。
人ではなく、飼ってるワンちゃんが被害に遭いました。
これまた乾燥に強い「サルモネラ」の特徴を象徴するような案件です。
でも今回は白和えですよ?
鶏、関係なくね?
それともう一点を簡単に。
今回の工場は、めちゃくちゃ衛生管理に気を遣っている。
だって、FSSC認証工場ですよ?
いいですか?
HACCPでも、ISO22000でもなく、一番厳しくて大変で金かかるFSSCを、各工場でやってる。
企業として、衛生管理に相当真剣に取り組んでますよ、ここ。
でも、実際にはこうやって食中毒が起きている。
ここが非常ー!に、衛生管理屋としては、興味深い。
では、ニュースをもう少し追いながら、プロファイリングしていきましょう。

「サルモネラ」の要因は何だったのか
今回のこの事故の要因は何だったのでしょう。
まず、食中毒を起こした製品は「人参・ごぼうと里芋の白和え」とのことです。
どうもこの工場は地元自慢の豆腐を使って総菜を作っている工場であるという。
高野豆腐が飯田の名物だなんて知らなかったよ。
嫁さん、キミ、知ってる?
「ああ、なんか寒いほうではよく食べるね」
へえ、そういうものか。知らなんだ。
おっと、話を戻します。

そもそも「白和え」、てそんな複雑なレシピじゃない。
豆腐を調味料やゴマなどと一緒にペースト状にして、そこに茹でた具を入れる。以上。
さて、今回食中毒を起こした要因は何だったのか。
まず最初に考えるべきは、豆腐。
充填して加熱することで製造する豆腐が、白和えだから煮沸が弱かった。
うーん、あるかなあ。
そもそもその豆腐自体が問題であったのなら、被害やロット回収はもっと違うかたちで起こっているように思えます。
製品もそこに止まらないはずです。
てかそもそも大豆から作る豆腐で「サルモネラ」の食中毒なんてのを、あまり聞いたことがありません。
となると問題はこの商品固有の具のほうか。
この製品の具は、「人参」「ごぼう」「里芋」です。
これらはどうでしょう。
「人参」「里芋」は割としっかり加熱するものです。
「ごぼう」。
皮剥きの機械を経てから、すぐに変色防止でしばらく殺菌浸漬される。
この線も薄そうだ。
ましてや、そもそも今回の食中毒は「サルモネラ」です。
これらで考えられる土壌汚染菌の「ウェルシュ菌」、「セリウス菌」じゃない。
確かに野菜で「サルモネラ」食中毒ってのも、無いわけではありません。
鶏由来の食中毒菌というイメージの強い「サルモネラ」ですが、実は多くの動物の腸内に存在し、その糞便などを介して汚染が広がります。
そのため「サルモネラ」に汚染された農業用水や堆肥などによる野菜汚染は、たまーっにあったりします。
こんな感じね。
ただし、これらはあくまで「生食用野菜」。
大概、野菜でサルモネラガー!という話は、生野菜がメインです。
キュウリ、キャベツ、レタス、トマト…。
これらが要因で「サルモネラ」食中毒が起こる場合、そのほとんどは野菜の洗浄殺菌不足です。
養鶏などで汚染された土壌で作った野菜に「サルモネラ」が付着しており、洗浄不足で食中毒が発生する、というものです。
でも今回はこれ、多分加熱してます。
「サルモネラ」の死滅条件は次の通り。

確か70℃1分でも死滅するはず。
それほど加熱条件が厳しいわけではありません。
つまりまともに調理すれば、付着していた「サルモネラ」は死滅します。
しかも「サルモネラ」は冷蔵庫で低温保管すれば、増殖しません。
冷凍保管してれば、まず大丈夫。
え、じゃあ豆腐と野菜じゃないとなると他にあるの?
ぼくも不思議に思い、思わず製品情報をチェックしました。
ん…?
「原材料の一部に卵を含む」
これ、ちょっと気になるな。
あとは考えたくないけど、二次汚染かなあ(笑)。
でもここ、FSSC取ってるんですよね?
「FSSC 22000」って何?
今回の食中毒事件の興味深いところ、それは「FSSC 22000」の認証工場で発生した、ということです。
結論から言えば、この企業、ハンパじゃなく衛生管理にコストも企業努力も注いでます。
でも、こういう事故が起きているんです。
「FSSC 22000」ってもしかしたら聞き慣れないかもしれませんね。
では、「HACCP」はどうでしょうか。
義務化を前に、それなりに理解が進んでいることでしょう。
詳しい説明は別でするとして、「FSSC 22000」ってのは、「HACCP」よりも厳密な食品安全国際規格である「ISO 22000」より、更に厳しい規格なんです。
乱暴に言うと、「ISO 22000」ってのは、「品質」に対する規格である「ISO9001」に、「HACCP」を組み合わせたようなもの。
では「FSSC 22000」はどうか。
これはその「ISO 22000」に、更に「前提条件プログラム(PRP)」を強化した、現状でのパーフェクト版です。
ってことは、つまり
ってことです。
図にすると、こんな感じ。↓
いかに「FSSC 22000」を認証取得するのが難しいか、わかるでしょう。
細かいことは別で書きますが、ここで何が言いたいのかといえば、そんな簡単に取れるもんじゃねえぞ、って話です。

「FSSC 22000」認証工場で起きた食中毒事件
このようなFSSC22000を認証する目的、それは大手流通企業との取引にあります。
というのも、FSSC 22000は「GFSI」の認証スキームだからです。
…って何言ってるか判らないですよね。(笑)
「GFSI」というのは、「Global Food Safety Initiative」。
日本語でいうと、「国際食品イニシアチブ」。
これは天下のイオンやコカコーラ、更にはウォルマートなどなど、名だたる世界の超大手流通企業、一流食品企業が700社近く加入している組織です。
で、この世界的大手グループ「GFSI」が推奨しているのが、この「FSSC」だということです。
ですから「GFSI」に属しているイオンや、輸出によって世界の大手企業と取引をしたい企業は、この「FSSC」認証を目指す、ということになります。
ところで皆さん、FSSC認証すんのに幾らかかるか知ってます?
コンサル入れたら1工場あたり、軽く200万円以上はするんじゃないですかね。
それしないとなると、相当ガッチガチに衛生管理取り組まないと簡単に取れるシロモノじゃあありません。
ちなみに今回やらかした旭松食品さんは、ホームページを見ると、全4工場で認証取得している。
これ、簡単な話じゃないです。
結構かかったでしょうねえ。
諸々入れたら1000万は軽く越えてるんじゃないかな。
勿論、その目的は上の通り、経営の拡大なわけですが(そんなん企業なら当たり前です)、同時にそのくらい、企業として食品安全にも本気だということです。
生半可じゃないでしょう。
そこらのヘタな大手メーカーを上回ってるレベルだと思いますよ。

まとめ:どこの工場や店舗でも起きうるからこそ怖い食中毒
さて、今回の「サルモネラ」での食中毒を整理します。
非常に興味深い点は、次の三つでした。
- この間工場横を走ったばかり!?
- 白和えでサルモネラが!?
- FSSC認証工場で食中毒が!?
いや一つめは、まあ置いておいて。
これらの点で学ぶところが多い案件だったと思います。
ほんと、他人事ではありません。
つまり。
このように食中毒はどんな工場にだってありうる話だという、これはHACCP義務化を前にしての大きく示唆的な話だと、一介の衛生管理屋としても真摯に向かわざるを得ません。
- 長野の高野豆腐工場で製造した総菜によって、「サルモネラ」の食中毒が発生した
- ってここ、こないだジョギングするときに見た工場やん!
- 「白和え」で「サルモネラ」ってどういうこと?
- 「豆腐」の汚染は?具の「野菜」による汚染は?普通は、ありえない。
- しかし原材料に「卵」が使われていると表示されている
- この工場は、FSSC 22000の認証工場だった
- FSSC 22000は、HACCP以上に厳しい認証規格である
- この企業は全工場においてFSSC 22000を認証取得している。それだけ食品安全に真摯な企業でもある
- それでも食中毒は起きうるものであるという認識が重要

・どうやって防虫管理・衛生管理をすればいいか判らない
・今やっている防虫管理・衛生管理が正しいか判らない
・何か問題が発生したときの対応が判らない
・取引先や保健所の査察が不安だ
・でも余りコストもかけられない
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