前回のお題、「中が赤いローストビーフ」と「レアな牛100%ハンバーグ」、食中毒で危ないのはどっち?
これを引き継いでの今回のお題は、今度はこれ。
「どうしてローストビーフは中が赤くても食べられるのか」
これに迫っていくとしましょう。
ついでにテレビでやっていた「ローストビーフをご家庭で簡単に作れる方法」についても触れていきます。

改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えいたします。

 

今日のお話の概要
  • 「ソレダメ!」でやっていた、「家庭で簡単にローストビーフを作る方法」
  • このレシピのポイントは、「最初に肉を常温に出しておく」「表面を高熱で焼き付ける」「低温でじっくり加熱する」の三つ
  • 最初に肉の表面を焼き付けるのは、「メイラード反応」と食中毒菌の「加熱殺菌」のためである
  • 加熱に関しては、厚生労働省の出している「特定加熱食肉製品」の「規格基準」にある肉の「中心温度」を参考にするといい
  • ローストビーフは、タンパク質の熱変性を極力させないように低温で加熱する調理法であり、これによって肉の柔らかさを維持する料理である
  • つまりローストビーフは生肉ではない「加熱食肉製品」。これが「生食用食肉」のタタキなどとは違う点である。
  • ローストビーフの中から出てくる赤い血のようなものは、タンパク質と肉の水分であり、血ではない
  • ローストビーフの食中毒として考えられるのは、病原性大腸菌と黄色ブドウ球菌であるが、これらは原材料時の低温保管と表面の高熱での加熱で危険性を排除できる

 

 

どうしてローストビーフは中が赤くても食べられるの?

前回のお題、
「中が赤いローストビーフ」と「レアな牛100%ハンバーグ」、食中毒で危ないのはどっち?

 

これ、我ながら力作。(自画自賛モード笑)
というのも、なかなかここまでしっかりと書かれているものがネットにもないかと思います。
もしまだ読まれてなければ、どうぞそちらか読まれることをお薦めします。
今回のお話も、それを踏まえてのものとなっています。

で。
そもそも何でこんな話になったのか、ってことを少しばかりお話させてください。

先月のことなんですが、家族で晩ご飯食べながらテレビ見てまして。
たまたまつけていた、テレビ東京の「ソレダメ!」。


ソレダメ! ~あなたの常識は非常識!?

 

そこで、「炊飯器で簡単に作るローストビーフ」っての、やっていたんですね。

ぼくもこう見えて料理男子なので、前からこの炊飯器ワザは知っていました。
ちなみにこれ、簡単なんだけど、ご飯がその間炊けないっていう難点があります。
尤もそのデメリットは、「いやそんなん、出来たローストビーフを冷ましている間にご飯炊けばええだけやん、はい論破」なんですけど(笑)。

まあそれはさておいて、番組を見ていたうちの息子が一言。

「どうしてローストビーフは中が赤くても食べられるの?」

ほう、我が息子ながら、鋭い質問ですな。
これには幾つか、段階を踏んでの解答が必要です。
それでは衛生管理屋であるパパが、少しずつ解説していきましょう。

家庭で簡単にローストビーフを作る方法

ではその「ソレダメ!」で紹介されていた、ローストビーフのレシピを見ていきましょう。

 

「ソレダメ!」式、誰でも家庭で簡単に作れる炊飯器ローストビーフ
  1. 調理30分前に、牛肉を冷蔵庫から取り出して常温に戻す
  2. 牛肉の表面に塩コショウを適量まぶして下味を付ける
  3. 熱したフライパンに2の牛肉を入れて加熱し、焼き色をつける
  4. 炊飯釜に60℃のお湯を注ぐ
    (お湯は、給湯器の温度設定を使用することで60度調整が可能)
  5. ジップ袋に3の牛肉を入れ、お湯を注いだ4の炊飯釜に沈めながら、空気を抜いていきジップの口をしめ、真空状態にする
  6. 炊飯器の保温モードで1時間保温する
  7. 1時間後、袋ごと取り出して、そのまま30分ほど放置し、寝かせる
    (出来上がってからすぐに切ると、うま味を含んだ肉汁が流れ出てしまうので注意)
  8. 薄く切って、盛り付ける
  9. ジップ袋に残った肉汁をフライパンに注ぎ、更に酒大匙1、醤油大匙2、蜂蜜大匙1、粒マスタード小匙1を加え、加熱してソースを作る

 

 

うーん、美味そうだ!
ウチでも作ってみようかなあ…。

ってそれはさておいて。
成る程これを見ると、ローストビーフの調理のポイントは幾つかあります。

 

ローストビーフの調理ポイント
  • 肉は事前に常温に出しておく(→レシピ1)
  • 最初にフライパンで表面を焼き付ける(→レシピ2)
  • 低温でじっくり加熱する(→レシピ6)

 

これ、それぞれが重要です。
一つ一つ見ていきましょう。

肉は事前に常温に出しておく

肉を事前に冷蔵庫から出し、常温に戻しておくこと。
このことは、美味しさも勿論ですが、加熱時の加熱不足を防ぐことにも繋がります。

冷蔵庫から出したばかりの肉は10℃以下の状態。
常温に戻せば20℃近くなります。
この温度差が与える影響は非常に大きい。

常温で晒しているに表面で菌が繁殖しないかという疑問が浮かぶかもしれませんが、大丈夫。
そのために最初に表面を加熱するのです。

最初にフライパンで表面を焼き付ける

切られたローストビーフを見ると判りますが、真ん中は確かに赤いですが、外側はしっかりと灰色に染まっていますよね。
それは最初に表面に加熱するから。
様々あるローストビーフの調理法ですが、ここは割と共通していることが多い。

何故か。
理由その1は、いわゆる「メイラード反応」ってやつです。

ウチは料理ブログでも理系ブログでもなく食品衛生の専門ブログなのでここでは簡単にしか触れませんが、要は「肉は高温で加熱することで、糖とアミノ酸が熱反応して美味くなる」(超訳)ってやつだと覚えておいてればいいです。
(ホントか!?)

そして、もう一つ重要な理由。
それが、「加熱殺菌」です。

この焼き付けによって牛肉の表面に付着している食中毒菌を殺菌するのです。

 

牛生肉は、肉の内部には菌はほとんど存在していません。
大腸菌などの菌が肉の内部に潜るという危険性も考えられなくもないですが、それでも表面を高温加熱することで死滅します。

つまりHACCP的に考えるなら、この工程が「CCP」、つまり重要管理点です。

ちなみに、よく「表面を焼くことで肉のうま味や肉汁を閉じ込める」と聞きますし、ぼくもそういうものかと長年思っていたのですが、どうやらそんなことはないという話。
最初に肉をやくのは、この「メイラード反応」と「加熱殺菌」が目的だと覚えてください。

低温でじっくり加熱する

さてここが一番重要なポイント。
ローストビーフは、低温でじっくりと加熱します。

加熱する時間は、前回の記事で触れた「特定加熱食肉製品」「規格基準」を参考にするといいでしょう。
国が出すからにはそれなりの根拠がありますし、市販のローストビーフもこれを参考に作られています。
(じゃないと市場に本来出せません)

 

なお、今回のこのお話も、きっちりとこの基準が守られているローストビーフが原則対象です。
そもそも、一般的にこれを守っていないものは、生肉扱いです。

おっと、それともう一つご注意を。
これはあくまで肉の「中心温度」です。
つまりローストビーフに中心温度計をぶっこんでの温度です。
加熱温度や表面の温度ではありませんからね。

だから、炊飯器の保温60℃で12分加熱すればいいかといったら、そういうわけではありません。
そこで、このレシピでは炊飯器での1時間の保温時間を設定しているわけです。

ちなみにこの時間設定も、肉の厚さや形状、最初の肉の温度などで変わってくるので、一概に「1時間がいい」とは限らないかと思います。
有る程度のゆとりをもって1時間としているのだと理解したほうがいいでしょう。

なお参考までに。
厚さ1㎝程度の肉を100℃で焼く場合、中心まで熱が伝わるのに、およそ8~10分程度かかります。
この場合、60℃ですし、肉が厚いことを考えれば、結構な時間がかかることが判るかと思います。

ローストビーフを柔らかく作るためのポイント

このように作るローストビーフは、そもそも加熱と肉の性質をうまくコントロールすることで作られます。
そう、ここがローストビーフのキモであり、面白いところです。

肉は加熱すると変質します。
つまり、焼きすぎると硬くなります。
色も赤から褐色になる。
これは肉のタンパク質の変性によるものです。

専門性が高まってくる話なので細かくは触れませんが、肉のタンパク質は50度前後から変性が始まり、このときが一番柔らかくなります。
さらに60度前後を越えると収縮が始まって、70度を超えると硬くなります。

これを利用したのがローストビーフです。
つまり
ローストビーフを最も柔らかく作るには、50度から60度くらいの温度で加熱することが重要になるわけです。
つまり、タンパク質の熱による変性を極力抑えながら加熱を加えることで、最も柔らかな状態を維持する。
これが重要なわけです。

ちなみに。
食肉加工工場では、原則的に熱湯を使っての温水洗浄はすすぎ洗い、洗剤での洗浄の後でしかやりません。
というのも、肉片が散乱しているときにそれをやってしまうと、肉片のタンパク質が熱変性を起こして硬くなり、固着してしまうからです。
そうすると変性し固着した肉片は床面や機械にこびりついて、なかなか取れなくなります。
(目玉焼きのカスって、なかなかフライパンにくっつくと取れませんよね。あれと同じです。卵のタンパク質の熱変性によって固着してしまうからです)
温水洗浄は確かに肉の脂を流す上には便利なのですが、そうしたタンパク質の変性の問題を孕んでいるのです。

ローストビーフと牛タタキの違い

これらからも判るように、ローストビーフは生肉ではありません。
ていうか、「生肉」だったら厚生労働省が「食肉製品」とするわけがありません。
そこが、牛刺身やタタキと違うところです。

そう、先にも触れましたが、ローストビーフは「特定加熱食肉食品」です。
これは「食肉製品」であり、つまり生食ではないという意味です。

しかし牛タタキの区分は、「生食用食肉」です。
これは牛ユッケ、牛タルタルステーキ、牛刺しなどと同じ区分です。
要するに、こっちは生肉です。

ともに表面を炙ることで加熱殺菌しますが、牛タタキはそれだけ。
だから中の肉は勿論、赤いままです。
なのでこれは完全に、生食。

かたやローストビーフは、中までじっくり加熱しています。
となると、中は淡いピンク色、いわゆる「ロゼ」になります。
つまりこちらは中まで加熱調理されている。
ただし、タンパク質の変性を極力抑えたように温度調整されているために、このようになるわけです。

ただし。
先述の通り、いわゆるレアの状態の場合、規格基準が満たされていない可能性があります。
その場合は、ローストビーフも生肉扱いです。
こうなると、生肉用の厳しい規格の牛肉を使わないといけなくなります。
当たり前ですが、これまでの話も、基本的に規格基準を満たした場合の話となりますので、ご注意ください。

どうしてローストビーフは中が赤くても食中毒にならないのか

さあ、ここまで話せば、最初の問いの答えがもうおわかりでしょう。
どうしてローストビーフは中が赤くても食中毒にならないのか。
その答えは、これです。

 

どうしてローストビーフは中が赤くても食中毒にならないのか
  • 食中毒菌は肉の表面にしかおらず、最初にまずそれを高温加熱で死滅させてしまうから
  • ローストビーフは、タンパク質の熱変性を抑えるため低温加熱された肉料理であり、赤く見えてもそれは生肉ではない
  • 作りたてはロゼ色だったローストビーフは、しかししばらくすると酸化し、赤みが増す

 

 

以下、補足。
これらはぐぐると皆コピペのようにお約束であちこちに書かれていることなので、ここでは簡単にしか触れません。

まず、ローストビーフを切って出てくる赤い肉汁。
あれは血ではなく、肉汁、タンパク質の一種です。
正確には、「ミオグロビン」。筋形質たんぱく質、てやつですね。
それが肉の中の水分と一緒になって、まるで血のように見えているだけです。

それともう一つ。
切ったばかりのローストビーフはロゼ色だったものが、時間が経ってやがて赤くなることがあります。
これは、肉の中の「ヘモグロビン」が酸素に触れて反応して赤くなるものです。
これもまた生であるわけではありません。

ローストビーフと食中毒菌

さて、最後に食品衛生のプロらしく、もう少しローストビーフと食中毒の関連性を見てみましょう。

ローストビーフでの食中毒としてよくあげられているのが、O157などの「病原性大腸菌」と「黄色ブドウ球菌」です。

まず一番怖いのが、O157などの「病原性大腸菌」でしょう。
肉は屠殺から解体、加工とすすむ工程内で、どうしても腸内細菌と触れてしまう。
結果、これが付着したまま調理してしまうと、とくに牛が腸内にO157などを保菌していた場合、食中毒の発生要因になる、というケースが考えられます。

ですが、大腸菌は肉の内部には入りません。
確かに肉の中に潜ることも考えられなくはないのですが、それほど深くは潜らないため、高温で肉の表面を加熱すれば死滅させることが可能です。

 

また、一方の「黄色ブドウ球菌」。
まあ、病原性大腸菌よりは可能性としては低いかなと思いますが、全く考えられないわけじゃない。

どうしてローストビーフの食中毒に「黄色ブドウ球菌」が関わっているかといえば、何らかのかたちで肉が人の手に触れることで表面に付着するからです。

そもそも「黄色ブドウ球菌」は、人の鼻の粘膜や皮膚の上にもいる常在菌です。
なので「黄色ブドウ球菌」が怖いのは、その菌自体ではありません。
ではなく、こいつらが産生する「エンテロトキシン」という毒素です。
つまり「黄色ブドウ球菌」で食中毒が起こるのは、菌自体ではなく、この毒素「エンテロトキシン」を摂食してしまうからです。

そしてこの「エンテロトキシン」の産生条件は、「黄色ブドウ球菌」の多量な増殖です。
しかしこの「黄色ブドウ球菌」は低温にはそれほど強くないため、10度以下では余り増殖が出来ません。
だからしっかりと牛肉を低温保管していれば、それほど増殖の問題はない。

そりゃ真夏に生肉を常温でずっと放置したものを使えば話は別ですが、上のレシピを普通になぞる分(そして調理機器などでの二次汚染をしないという前提)にはそれほど問題になるとは思えません。

まとめ

「どうしてローストビーフは中が赤くても食中毒にならないのか」

この質問の答え、ご理解いただけましたでしょうか。

簡単に言えば、ローストビーフは最初に表面をしっかり加熱殺菌して食中毒菌を殺し、その後ゆっくりと低温加熱する。
だから中が赤く見えても食中毒にはなりません。

また生肉のように見えるかもしれませんが、それはタンパク質の熱変性を極力抑えながら加熱されているためであって、生肉ではありません。

もう一つ言うなら、ローストビーフの切り口は時間が経つと酸化するため赤くなることがあります。

さあ、こうやって書いていたら段々と食べたくなってきてしまいました、ローストビーフ。(笑)
皆様も是非試してみてください。

 

今日のお話の概要
  • 「ソレダメ!」でやっていた、「家庭で簡単にローストビーフを作る方法」
  • このレシピのポイントは、「最初に肉を常温に出しておく」「表面を高熱で焼き付ける」「低温でじっくり加熱する」の三つ
  • 最初に肉の表面を焼き付けるのは、「メイラード反応」と食中毒菌の「加熱殺菌」のためである
  • 加熱に関しては、厚生労働省の出している「特定加熱食肉製品」の「規格基準」にある肉の「中心温度」を参考にするといい
  • ローストビーフは、タンパク質の熱変性を極力させないように低温で加熱する調理法であり、これによって肉の柔らかさを維持する料理である
  • つまりローストビーフは生肉ではない「加熱食肉製品」。これが「生食用食肉」のタタキなどとは違う点である。
  • ローストビーフの中から出てくる赤い血のようなものは、タンパク質と肉の水分であり、血ではない
  • ローストビーフの食中毒として考えられるのは、病原性大腸菌と黄色ブドウ球菌であるが、これらは原材料時の低温保管と表面の高熱での加熱で危険性を排除できる

 

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