最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回の話題は、こちらのニュースです。
- 自主回収のおから 旭川や札幌の66人が食中毒(2019年7月19日)
改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。
セレウス菌による食中毒が発生
先日、北海道で起こったセレウス菌による食中毒が報じられていました。
Twitterでこれについて述べたところ、そこそこの反応があったので、今回はこれを取り上げてみたいと思います。
旭川市保健所は19日、旭川市の食品製造「ながやま食品工業」(能登秀夫代表)の製品「味付けおから150g」を食べた札幌や函館、旭川などの男女66人がセレウス菌による食中毒を発症したと発表し、同社を同日から5日間の営業停止処分にした。
保健所によると66人は10~90歳で、2~9日にこの製品を食べた後に下痢や嘔吐(おうと)などの症状を訴えた。このうち7人の便からセレウス菌が検出された。全員が快方に向かっているという。
ながやま食品工業は、商品購入者から味や臭いに異常があると苦情が届いた4日から製造を中止し、賞味期限が11~23日の約4千点を自主回収している。
そもそもセレウス菌による食中毒件数は、正直それほど高くはありません。
大体、事例数としては年間およそ10~20件以内といったところ。
患者数は年によっても変動していますが、このところ10年ほどは100~200人くらい。
これは件数、患者数ともに(マイナーめな)ウェルシュ菌よりももっと少ない、といったレベルで、食中毒統計としては相当低い方だったりします。
また、食中毒としても比較的軽症なことも多く、食中毒菌としてはどちらかといえば地味な存在。
ただし、この菌での食中毒は、そのほとんどがしっかり加熱された食品を食べて発症している、というのが共通している。
そう、いわゆる、「芽胞形成菌による食中毒」というやつなのです。
- 土壌に存在する腐敗菌で、土、空気、河川等水中などその他自然環境において広く分布
- そのため穀物や豆類、香辛料などの自然界農産物から水産物、畜産物まで広く汚染
- 耐熱性に優れた芽胞を形成する
- 10~50度の温度域で増殖する
- 増殖適温に達すると、その際に毒素を産生する。この毒素におかされた食品を摂食すると食中毒に発症する
はい、ここでポイント。
上の中で最も重要なのは、このセレウス菌は、高温のような劣悪な生存環境に至ると、「芽胞」という自らを守る強力なバリアを張る類の菌だということです。
これを作られてしまうと、まあ普通に加熱調理しても菌は死に(=失活し)ません。
例えば代表的な食中毒菌である腸管出血性大腸菌(O157)であれば、多くの菌同様に75度1分の加熱で死んでしまうのですが、このセレウス菌の場合、100℃以上で30分加熱しても死なない、というデータも出ているくらいです。
しかも、上にあるように、広く自然界にどこにでもいる雑菌、腐敗菌の一種でもあります。
そこにセレウス菌の厄介さが、実はある。
意外に少なくない、セレウス菌食中毒
今回問題となった食品は、「おから」でした。
一般的に、セレウス菌の食中毒といえば、炊飯後のご飯や炒飯、ピラフ、パスタといった主食物、スープやカレーなどからの発生が一般的で、「おから」からというのはかなりレアなほう。
…というのが一般的でもあるんですけど。
余り報じられませんが、実は意外とあるのですよ。大豆由来のセレウス菌による食中毒って。
例えば、この食中毒が起こる、ほんの数日前。
なんと大阪でもセレウス菌による食中毒が発生しているのです。
しかもこちらも、食中毒の要因は卯の花、つまり原材料は、同じ「おから」。
尤も規模は小さなものであったため、ネット上でも全く注目されてはいませんでした。
このようにセレウス菌って規模も小さいものが多く、比較的軽症で終わることもあって、あまり大々的に報じられたり、扱われるようなことがないのですが、それと同時に。
かといってそれ程バカに出来ないものであることも判るかと思います。

「おから」から発生したセレウス菌食中毒
今回のセレウス菌の食中毒は、「おから」によるものでした。
では「おから」って、どのように製造されているのでしょうか。
簡単に言うと、大豆を磨り潰して加熱したものを絞ると、いわゆる「豆乳」と「おから」に分けられます。
一般的に、豆腐工場ではその豆乳を豆腐の材料として使います。
この際、おからは別途の用途として区分されます。
このペースト状にされたおからは水分を多く含んでいます。
一般的にはそのごく一部を乾燥、加工するなどして、そのうちの大半を非食品用途に、そしてごく一部のみを食品用途として製品化していきます。
言ってみれば、おからは豆乳や豆腐製造の副産物です。

それでは、こうして製造されているおからにおいて、どうして今回のような問題が生じたか、考えてみましょう。
どうやって食中毒が発生したのか
もう一度、復習しますよ。
まずそもそもセレウス菌というのは、自然環境下に広く分布している腐敗菌です。
基本的には土壌中に存在している「通性嫌気性菌」ですが、そのほか河川などの水中にも存在しており、農産物などが汚染されている可能性は容易に考えられます。
要するにどこでもいるんですね、セレウス菌は。

また米や麦などのでんぷんに由来する発生事例が圧倒的に多いのでそうしたイメージが強いのですが、実際のところそれだけに限りません。
穀類、豆類、香辛料などをはじめ、今回のような大豆が汚染しているということも十分考えられるかと思います。
また芽胞を形成すれば乾燥状態でも長期にわたっての生存が可能であることも、押さえておきたいポイントです。
さて、このように原材料である大豆がセレウス菌に汚染されていたとします。
洗浄工程を経たものの、それが不完全であるため、除去しきれなかったということもあるでしょう。
あるいは、汚染された器具と交差汚染して付着した、ということも考えられます。
実はこれ、乾燥に強いセレウス菌は、製造器具などにも付着し、二次汚染を起こす可能性もままあるのです。
いずれにせよ、セレウス菌芽胞は、洗浄による除去がそうそうしづらいものだということを知ってください。
とまれ、何らかの形で、セレウス菌による汚染が生じた。
さて、大豆は漬け込まれた後につぶされて、煮沸されます。
しかし芽胞を形成したセレウス菌は、煮沸程度の高熱で失活できるかは全くもって不明です。
何せ100℃以上で30分加熱しても失活しないというデータもあるほどですから。
というか、基本的にセレウス菌は通常の加熱工程では抑えられないものです。
この意味において、セレウス菌に対し、ネット上でどこかが報じていたような「加熱不足」は素人レベルの明らかな誤りです。

さて、加熱されたセレウス菌は、芽胞を形成します。
ただしこの時点において、セレウス菌は活動停止状態となっています。
つまりこのままではセレウス菌は休眠状態なので、増殖することはありません。
だから高熱の間は、ただ芽胞菌がそこにあるだけなので、害がない。
しかし問題は、加熱が終わって製品が冷やされ、活動温度域である48℃を下回ったとき。
ここから、セレウス菌はまた活動を再開させ、増殖を始めるのです。
そしてこれからが、問題です。
何故なら、セレウス菌はここで毒素を出すからです。
セレウス菌の作る毒素「セレウリド」
さて、「芽胞」によって守られている状況では、セレウス菌は増殖が出来ません。
休眠状態なんですね。
それが活動温度域にまで下がってくると、またセレウス菌は活動を再開させます。
つまり、「発芽」を行って増殖が始まるんです。

概念的にはこのような感じですね。
かくして、セレウス菌の増殖が繰り返されます。
そうやって大量のセレウス菌が増殖していく。
なかでも常温保存されているような25度~38度の温度域では、最も活性化されています。
さあ、この際に産生される毒素こそが、おう吐を引き起こし食中毒の要因となる元凶、「セレウリド」なのです。(※1)
一般的に食中毒菌は、その毒性から二分されています。
「感染型」と「毒素型」です。

微生物自体が増殖することで問題となるのが、「感染型」。
一方、微生物が何らかの毒素を作り出し、それが問題を起こすのが「毒素型」。
セレウス菌の場合は、つまり後者です。
しかも。
このセレウス菌が作り出すおう吐毒「セレウリド」もまた熱に強く(120度以上)、普通の加熱加工程度では無毒化できません。
かたや増殖を始めたセレウス菌自体は、今度は通常の加熱(75度)で殺すことができます。
しかしセレウス菌を失活させたとしても、すでに耐熱性の毒素「セレウリド」は食材内に残ることになります。
よってこれを摂食すれば、食中毒になる危険が残っています。
このデータは、セレウス菌が10の8乗にまで増殖し毒素が320ng/g産生された米飯を使って調理したものの変化をみたものです。

ここでは、一番上の「米飯」をもとに、それぞれ「揚げる」「焼く」「電子レンジで温める」の3種の調理を行っています。
見てわかるように、一度産生されてしまった毒素はあまり減少しません。
揚げたり焼いたりなどと高熱を加えても、毒素量は半分程度にしかならないのです。
また菌数も思った以上に下がらないこともわかりますね。
なかでもレンジでチンする程度の加熱での影響はほとんどないものと考えたほうがいいでしょう。
さあ、このように意外と厄介なセレウス菌対策を、どのように対処すればよいでしょうか。
…少し長くなりました。
少しここで区切ることにしましょう。
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